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第476話

なんだかんだで面倒見の良い雪夜さんのことだから、妹さんのわがままにも付き合ってあげちゃうし、面倒くさいと言いつつも、妹さんのことをしっかり構ってきたんだろうなって。 そんなことを考えていると、雪夜さんはオレの肩に顎を乗せ、不思議そうに問い掛けてくる。 「……お前、華には妬かねぇーのか?」 オレの嫉妬心が雪夜さんに牙を剥くことを、雪夜さんはよく知っている。けれど、今日のオレはちょっぴり大人だから。 「もちろん、妬いてはいますよ。雪夜さんにこれだけ思ってもらえるなんて、妹さんが羨ましい限りです」 「その割には、穏やかそうだな」 「だって、妹さんを心配してるお兄ちゃんな雪夜さんも好きだなって思うから。今は新しい雪夜さんの一面を知れて、嬉しい気持ちの方が勝ってるだけです」 お兄ちゃんな雪夜さんは、優しい。 雪夜さんは兄妹のことがあまり好きではないみたいだけれど、雪夜さんはご兄妹に愛されているはずなんだ。 「お前には敵わねぇーな、可愛いすぎだろ」 「ん……ちょっと、くすぐったぃ」 お腹に回された雪夜さんの手がオレの脇腹を撫でていき、オレは思わず身を捩る。 幼い雪夜さんの夢を奪ってしまったお兄さんたちも、大好きだった雪夜さんのことを今は拒絶している妹さんも。 きっと。 雪夜さんのこの優しさに甘えたくなっちゃうんだろうなって、オレは心の片隅で苦笑いする。オレもそんな雪夜さんの優しさに惹かれてしまった一人だから、今は甘えてくる雪夜さんを独り占めできることがオレは嬉しくて。 「雪夜さん、愛してます」 誰よりも、雪夜さんが好き。 その想いは、例え雪夜さんの兄妹でも妹さんには負けないんだから。オレはちょっとした想いを込めて、雪夜さんにそう伝えたけれど。 「うわっ!?」 くるっと身体の向きを変えられ、雪夜さんと向き合ってみると、自分が言った言葉がどれだけ恥ずかしいものだったのか実感する。 ついさっきまで疲れきっていたはずの雪夜さんは、ある程度話し終わって充電が完了したのか、すっかりいつもの余裕そうな表情に戻っていた。 「あのっ……」 目と目が合い、絡まる視線にドキドキしてしまう。何か言わなきゃって頭はフル回転しているのに、言葉が出てこない。 「せーい?今まで喋ってくれてたのに、なんで顔みた瞬間黙んだよ?」 「んぅー、だって恥ずかしいじゃないですか……あんなこと言わせたすぐ後なのに、雪夜さんズルいです」 「お前が可愛いコト言うからだろ。今度は、お前が甘える番……ほらこいよ、星くん」 数秒前まで散々オレに甘えまくっていた人とは思えないくらい、雪夜さんの声からは不安の色が消えていて。 相談に乗れるほどオレは大人じゃないけれど、話したことで心の不安を少しは癒せたのかなって、オレは雪夜さんの首筋に顔を埋め小さく微笑んだ。 「星、愛してる」 力強く抱きしめられ、身体に落とされたキスは、驚くほど熱く感じた。

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