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第477話
深まるキスに、息をするのも忘れて。
生まれたままの姿で求め合う身体に、お互いの想いを残していく。知らぬ間に増えていくいくつもの赤い痕は、オレのアンクレットのそばまで辿り着くと歩を止めた。
身体中で、雪夜さんを感じて。
こうやって愛を伝え合えるのもオレだけなんだって思うオレは、その喜びと強い快感に涙を流す。
……出来ることなら、ずっとこのまま繋がっていたい。
でも。
そうできないから特別で、愛おしく感じる行為でもあるんだと、離れていく雪夜さんを見つめ微笑んだオレは静かに目を閉じた。
そのまま手放した意識は幸せな夢の中を漂い、それが戻って来るころには大好きな雪夜さんの香りと温もりに包まれていて。
「……起きた?」
優しくオレに声をかけてくれた雪夜さんは、幸せそうに笑っていた。寝ぼけ眼で雪夜さんの問いにこくりと頷けば、大きな手で頭をくしゃりと撫でられる。
綺麗に整えられた身体から、オレは雪夜さんの気遣いを知る。モコモコ素材のルームウェアをオレがいつの間にか着ているのは、きっと雪夜さんが行為のあとでオレを労ってくれたからだ。
なんでもない幸せな時間が続けば続くほど、人はそれが幸せだっていつの間にか忘れて、当たり前の日常だと錯覚しがちになってしまうけれど。
ひとつのベッドで寄り添い笑い合える今だって、もう何度か経験していることなのに。雪夜さんと過ごす大切な時間は、いつだって新鮮で幸せを感じられるから。
伸ばされた左腕の隙間に潜り込み、肩と胸の間にこてんと頭を預けてオレは雪夜さんの心音を聴いていた。一定のリズムで、とても落ち着く雪夜さんの音。
視覚、嗅覚、触覚、聴覚……ほんとに身体の全部で雪夜さんを感じていたオレは、最中に噛み付いた鎖骨の歯型をなぞっていく。
「痕、また増えちゃいましたね」
「こんだけついてんのにな、どれもそのうち消えちまうんだよ……っつっても星くんの身体中、俺の痕だらけだから、お前も俺のコト言えねぇーけど」
首から下に不規則に散らばる赤い痕は、すべて雪夜さんがオレにつけたもの。独占欲の強さなら、お互いに負ける気のないオレたちは、マーキングのように身体中に痕を残す。
離れていても寂しくないように、雪夜さんを思うことができる印。残された痕が薄れて消えるまで、ふとしたときに愛おしさが募るけれど。
「噛み痕とキスマークじゃ、全然違うと思うんですけど……それに雪夜さんは、あんまり見えるところにつけないじゃないですか?」
「ナニ、見えるところにつけてほしい?」
ニヤリと笑う雪夜さんの表情に、オレは目を惹かれてしまう。でも、今はそういうことじゃなくて。
「えっと、そうじゃなくて……」
オレにも、雪夜さんの噛み痕をつけてほしい。
傷つけてほしいんじゃなくて、溢れる独占欲を我慢しないでほしいから。
そう小さく雪夜さんの耳元で囁いたオレは、なんともいえない幸福感と、新しく与えられた刺すような痛みに身体を震わせた。
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