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第480話

「あ、ひろ……」 「弘樹くんっ!」 お昼休みの放課時間、学科が違う弘樹がうちのクラスまでやって来た。いつもの弘樹なら、部活の先輩や同じ学科のクラスメイトと一緒に、今頃は購買で争ってる時間なのに。 さえない顔をした弘樹は、スマホを弄りながら無言で西野君の隣までやってくると、ただ立っているだけで。やっぱり何かがおかしいと思ったオレは、制服のポケットの中で震えたスマホを手にして二人から視線を逸らす。 「弘樹くん、その椅子座って?あとこれ、お弁当」 「あぁ、サンキュー」 西野君に促されて、空いている前の席の椅子にドカッと座った弘樹はお弁当の袋を開ける。そんな弘樹の姿をスマホ越しの視界の中で流し見たオレは、無言のまま目の前の弘樹から送られてきたLINEの内容を確認した。 話したいことがあるから、部活帰りに家によるって……きっと、それは西野君のことなんだろうと思いつつ、オレは弘樹からのLINEにOKのスタンプだけを送り返して、鞄の中からお弁当を取り出す。 弘樹がここに来た目的は、どうやら西野君と一緒に昼食をとるためのようだけど。美味しそうな手作りのお弁当を西野君から手渡されても、弘樹は笑顔を見せないままだった。 「弘樹くん、どうかな……美味しい?」 「うん」 「良かったぁ、明日も作ってくるね」 「……ありがと」 弘樹は西野君に小さくお礼を言うけれど、それ以降弾まない会話。オレは、食事をする弘樹と西野君の様子をただ黙って見つめているだけだ。一体この二人に何があったのか、本当なら今ここで訊いてしまうのが一番なんだろうけれど。 とてもじゃないけれど、そんな雰囲気じゃない状態の二人に、オレは声をかけることすらできなかった。オレって何か悪いことしたのかなって、そんなふうに思ってしまうくらい、気不味い空気がオレを包んでいく。 二人仲良く軽やかに話しているのなら、オレがこんな思いを抱えることはないのに。弘樹と西野君のあいだには、温度差がありすぎる。 弘樹を見つめ、笑顔を見せる西野君は相変わらず可愛い。でも、見つめられている弘樹はというと、ほぼ無表情でお弁当を頬張っているだけだった。 雪夜さんからバカ犬だと言われるほど、弘樹は人懐っこいから。基本的に、弘樹は誰にでも笑顔で接しているイメージがあるのに。こんなに表情のない弘樹を見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。 あからさまに弘樹の態度が悪いのに、西野君が平然と笑っていられるのもおかしな気がする。オレが相手の顔色を窺いすぎてしまうだけなのかもしれないけれど、こんなのはきっと異常だ。 友達と親友のやり取りを眺めて、黙々とお弁当の中のおかずを食べ進めていたオレだったけれど。途中でかじったおにぎりが、なんだかとても味気なく感じて。 早くこのおかしな時間が終わってくれればいいのにと、オレは心の中で呟くことしかできないでいた。

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