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第484話
「西野は……俺がアイツの言うことを聞いてさえいれば、セイには手が出せないんッスよ。西野は西野で、身体売ってる事実を学校側に知られたらヤバイんで。とりあえず白石サンと王子には、この状況を知っててほしかったんッス」
LINEでは断片的で理解に苦しむ話の詳細を、俺はやっと整理することができた。けれど、不安定な心のままの弘樹を家に帰せるわけもなく、俺は煙草に火を点ける。
「なるほどな、お前のおかげで把握はできた……あと、他に伝えておきたいこととかあるか?」
俺がそう尋ねると、弘樹はゆっくりと頷いた。そして、暗い表情のままの弘樹は、星には言えなかったコイツなりの思いを語り始める。
「俺がセイのためにできることは、このくらいしかないから……俺は、俺なりにセイを守ってやりたいんです。でも、セイには言えないことが多すぎて……俺バカだから、一人じゃどうにもできなくなっちゃって」
星を囮に使い、自分自身リスクを犯してまで弘樹と関係を持ちたい西野と、星を守るためにどうにかしようと一人で足掻き、手詰まりになってしまった弘樹。
それでも、バカはバカなりに考えていたようだ。
星のためを思い、考え、行動して。
西野に振り回されながらも自分の気持ちに嘘はつけず、底辺まで落ちてしまっている弘樹は正直見るに堪えない。
人懐っこいはにかんだ笑顔や、煩すぎるぐらいのテンションも、今の弘樹にはそんな要素がどこにもなく、別人状態だった。
こんな弘樹の姿を目の前で見ていたら、そりゃあ星は心配するだろうし、話の内容からして混乱するに決まっている。できれば星の前では笑ってやっていてほしいところだが……弘樹は弘樹で、必死だったんだろう。
もう少し分かりやすく、LINEを送ってくれればとは思うが。俺だけでなく、光にまで連絡をし、星のことを考えてここまで耐えたのなら上出来だ。
それに比べて西野ってヤツの行動は、子供じみていて腹立たしいもので。もしこの場に光がいたなら、両手叩いて笑われるほど悪魔からしたら粗末なものだと思う。
そんなことを思いつつ、テーブルに頬づえをつき煙草の煙を燻らせる俺と、疲れ切った様子で大きく溜め息を吐いた弘樹。そんな弘樹ではあるが、いつの間にか大きく成長したコイツは俺を真っ直ぐな瞳で捕らえると、どこか男らしく頭を下げる。
「俺がこの先セイを傷つけることになっても、白石サンはアイツのこと、悲しませないでやってください。俺の分まで、愛してやってくださいっ!!」
親友という立場で星を守り抜くと覚悟を決め、身を引いた弘樹からの言葉。それはまだ微かに恋心を残したままの、男としての弘樹にしか言い放つことのできない暖かなものだったが。
この日、交わした弘樹との約束を。
星を悲しませないという、当たり前でなんでもない約束を。守ることが出来なくなる日が来るなんて……この時はまだ、誰も知らずにいたんだ。
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