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第487話
たったひと言。
頼みがあると伝えれば、ランは自ずと答えを導き出す。俺がここに来た目的、この話の流れでランじゃなきゃできないことはひとつしかない。
「雪夜、貴方まさか昌ちゃんに連絡しろ……とか、言い出すんじゃないでしょうね?」
「そのまさかだ、よく分かってんじゃねぇーか」
ニヤリと笑って返事をした俺とは違い、不安そうな表情を隠さないままランは俺に問いかける。
「貴方の考えは分かるけど、私から昌ちゃんに話をするとなると……雪夜と星ちゃんの関係を、昌ちゃんにはある程度話さなきゃならなくなるかもしれないわ。それも、覚悟の上かしら?」
赤の他人に、俺と星との関係を知られたところで困るのは俺じゃない。星のことを考えると、できることなら話さずに済む方法を取ってやりたいところではあるが……俺より長く生きているランのことだ、そのことに関しては上手く伝えてくれるハズだろう。
「俺は、少なからずお前を信頼してる。覚悟もナニも……んなもんなかったら、わざわざお前に頼みになんか来ねぇーよ、バカが」
「ちょっと、バカは余計よっ!それが人にものを頼む態度かしら?貴方は本当に素直じゃないわね、星ちゃんの爪の垢でも煎じて飲んでらっしゃいっ!!」
「うっせぇー、オカマ。頼まれてくれんのかそうじゃねぇーのかハッキリしろ、早くしねぇーと、その口塞ぐぞ」
「あら、ナニで塞ぐつもりでいるのかしら?その唇を奪っていいのは、星ちゃんだけでしょう?」
「誰がキスするっつったんだ、変態」
「冗談よ、貴方の頼みなら聞いてあげるわ。昌ちゃんには、私から話つけといてあげましょう」
冗談を言っている場合ではないのだが、ランのペースに流された俺は溜め息を吐く。ついでにその顔を睨んでやると、アホみたいに騒いでいたオカマは静かにカクテルグラスを拭き上げ始めた。
「……ねぇ、雪夜」
「ナニ?」
「やっぱり今の時代、援助交際って言うのは古いかしら……そういうの、パパ活っていうの?それとも頂き男子?時代によって呼び名が変わるから面倒ね、昌ちゃんになんて言えば通じるかしら?」
「知らねぇーよ、んなもん自分で考えろ」
ランに昌ちゃんと呼ばれ、ランには頭が上がらない男。俺とは面識がないソイツのことを、信じられるかと聞かれれば嘘になる。ただ、染み付いた上下関係は簡単に崩せるものではないから。
ソレを裏付けたのが、入学当初に星の髪を切らずに済ませたランの権力の強さだろう。ランと横島の関係性を俺が詳しく知らずとも、あの一件でランがソイツを言いくるめられるのは証明されている。
あとは、教師という立場の人間を上手く利用して、西野の企みをどう止めるかが問題だ。今は弘樹が仕方なく西野と付き合っていたとしても、西野が星に何もしないという保証はない。
愛する星くんが、平穏な学校生活を送れればそれでいい。西野ってヤツがどうなろうと、正直俺には関係のない話だから。
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