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第488話

横島に取らせる行動をランと二人で話し合い、店を出る前に咥えた煙草をランに奪われた俺は、オカマ野郎を睨みつける。 「吸い過ぎよ、落ち着いたらすぐに連絡入れてあげるから大人しく待ってなさい。いくら雪夜が悪い子でも、もうとっくに寝る時間を過ぎてるはずだわ」 カウンターにあった灰皿を片付けたランにそう言われ、腕時計で時間を確認すれば、日付も変わりそのうち朝がやって来る時間帯になってはいたが。 「数日寝なくても、俺は別に問題ねぇーよ……っつーか煙草返せや、ラン」 星が隣にいないベッドの中じゃ、身体に疲労が蓄積されていないと、どのみち俺は寝付けない。そう思い、席から立ち上がった俺を見て、ランは勝ち誇ったように腕を組む。 「バァーカねぇ、若いからって油断してるとあっという間に年取るんだから。今日はもう、吸わずに帰りなさい」 「うっせぇーな、ここで吸えねぇーなら運転中に吸うだけの話だから返しやがれ」 「煙草の一本で、こんなにムキになっちゃって。さっきまでの大人びた雪夜は、一体どこにいったのかしら?」 「最初からいねぇーよ、そんなもん。俺はまだガキなの、分かる?」 大人になりきれていないから、俺はこんな時間にこんな場所でオカマ野郎に煙草を奪われているというのに。 「子供なら余計に、返してあげられないわ。残念だったわね、雪夜ちゃん?」 「……殺すぞ、ラン」 調子に乗ったオカマの腕をカウンター越しから掴み、その拍子によろめいたランの肩を抱いて。一瞬たじろいだランを無言で睨んだ俺は、ランの手にあった煙草を自らの手で奪い取った。 「もう……本当に、貴方には敵わないわね」 そう言って、薄く笑ったランだったが。 俺は礼を言わずに、ランの店を後にした。 少しだけよれた煙草を咥え、寒さに眉を寄せながら家に帰るために乗り込んだ車内は、外よりも肌寒く感じて溜め息が漏れた。 とりあえず、エンジンをかけたはいいものの。 車内でも白く湯気る吐息に心做しか体力を奪われていく。冷え込んでいた車内に暖房をつけ、俺はまだ暗い街並みの中、ゆっくりと車を走らせた。 通勤ラッシュには、早過ぎる時間。 何台もの車が堂々と道路交通法を違反して、俺を追い越していく。走り慣れた道ではあるし、カメラの位置も、よく警察がスピード違反者を狙っている場所も把握はしているが。 何もない家に帰るためにとばす気にはなれず、律儀に止まった赤信号の前でスマホを確認した俺は、大量のLINE通知に頬を緩めた。 ランと話し込んでいたあいだに、溜まっていたLINE。愛する星くんの穏やかな寝顔写真とともに送られてきていた光からのソレは、明日会って話したいというものだった。 俺が弘樹に構っていたとき、同時に光は星のことを気遣い側にいたようだから。あの金髪悪魔に会うのは面倒だと思いながらも、星のことを気にかけていた俺は、迷うこなく光に了解のスタンプを送り返した。

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