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第490話

「綺麗に揃えてあるキューブを崩すとき、それはせいの心の乱れと同じなの。ぐちゃぐちゃに混ざりあったカラフルなキューブを何度揃えても、独りで遊んでるせいは自分でまたキューブを崩すさなきゃならない」 人の傷に敏感な星は、自分の傷には鈍感だ。 いじめられっ子だった自分を守るために、知らぬ間に鈍らせた感度なんだろうが。 でもそれは、せいが傷ついて悲しんでる何よりの証拠なんだと光は俺に語りかける。 「今回の西野の話……たぶんせい本人は気づいてないけど、キューブ回すくらいだからあの子相当傷ついてるよ。西野が身体売ってたこと知って、考えても分からないことだらけなのに西野の気持ちに寄り添っちゃって……それで、ショック感じて思考停止」 寄り添う必要なんてないのに、相手の気持ちを考えてしまうのは星の癖なんだろう。ただ、他人にどう言われようと身内からしっかりと愛情を注がれている星に、西野の闇は理解し難いのは事実だ。 「星くん、愛されてるからな。俺だけじゃなく、お前にも弘樹にも……愛が欲しくて身体売るヤツの気持ちなんて、分かるワケねぇーだろ」 「むしろ、分かる必要なんてない」 「そんでも、自分のことより相手のことを思って、西野の気持ちに追いつけねぇーから思考停止ってワケか」 「そういうこと。ひぃ君に告白されたときだって、自分よりひぃ君を思って泣いてたからね。それはせい自身が、ひぃ君を傷つけたって思ってたから泣けたの。誰かを思って涙することができるのは、せいが相手の立場になってものを見てるから」 「アイツ自身、ソレに気づいてねぇーってのが星くんらしいけどな。今回は弘樹でも頭抱えてんだ、星がそんなんになっても仕方ねぇーよ」 そう口では返しつつ、星自身も気づかぬうちにできた心の傷を思うと苦しくなる。星の慈愛の念は、俺にはない思考だ。 他人は他人だし、俺じゃない時点でどうでもいい。他人を羨むことも、妬むことも……逆もまた然りで、手を差し伸べることも、優しくすることも、俺はすべて面倒に感じてしまうけれど。 ひとつの玩具で遊ぶ姿で、星の心の傷に気づいた光。俺なら気づいてやることができたのだろうかと、頭の中に一瞬過ぎった情けない自分に溜め息が漏れた。 「それでも昨日はユキの話したりして、せいの気を紛らわしてあげたらすぐに笑顔が戻ったの。だから昨日送ったせいの写真は、穏やかで幸せそうな可愛い寝顔だったでしょ?」 「言われてみりゃ、そうだった」 「せいはさ、本当にユキが好きなんだよ。ユキが俺や優と一緒にいるとき、せいの話するとユキの頬が緩むんだよって教えてあげたら、せいはすっごく嬉しそうにしててね……やっぱり少し悔しいけど、ユキはあの子の安定剤だから」 完璧な王子様スマイルが微かに崩れ、光から言われた言葉に感じたことのない切なさに襲われた俺は、星と同じ色をした光の瞳を見ることができずにいた。 

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