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第496話
オレが感じていた不安をすべて拭い去ってくれた雪夜さんは、オレが浅い眠りから覚めるまで食事もとらずに待っていてくれたみたいで。二人で食べた方が美味しいからと、雪夜さんはオレが作った料理を温め直して食事の用意をしてくれていた。
たたみ終えてない洗濯物は知らぬ間にソファーからなくなって、汚れていたはずのオレの身体はやっぱり綺麗になっている。
「……んぅー、ずるい」
本当に、雪夜さんは一人で何でもできちゃうんだから。ちょっとくらい抜けたところがあってもいいのにって思いつつ、オレは自分で作った料理を口にするけれど。
「やっぱ、お前が作るメシが一番美味いな。星と二人でこうやって、ゆっくり食事できる時間ってすげぇー幸せだ」
「オレも、とっても幸せです」
くしゃりとオレの頭を撫でて、満足そうに微笑む雪夜さんには敵わなくて。オレのちっぽけな対抗意識はすぐにどこかへ行ってしまった。
オレはもう、雪夜さんの抜けているところをすでに知っているから。なんでもできる雪夜さんだけれど、雪夜さんは画伯だって。思い出したオレは、なんだか雪夜さんが可愛く思えて仕方なかった。
雪夜さんと二人だけの、安らぎの時間。
遅めの食事のあとは、一緒にお風呂に入って。同じベッドで眠りに就く前に、オレが雪夜さんにしてもらっているのは腕枕だ。
片腕を伸ばしたまま、オレを包み込むように抱きしめてくれる雪夜さんからは、オレと同じボディーソープの香りがする。雪夜さんのお家のお風呂で、同じものを使っているから当たり前のことなんだけれど。
そんな些細なことですら嬉しく感じてしまうのは、西野君の話が忘れられないからかもしれない。
「星くん、なんかお話して?」
「なんかって……オレ、面白いこと言えないですよ?」
「面白いこと言えなんて、言ってねぇーだろ。何でもいい、思ったことでも学校であったことでも……俺はお前の話が聞きてぇーの、ダメか?」
首を傾げてオレに問う雪夜さんが可愛くて、オレは雪夜さんの鼻先に、チュって小さなキスを落としてみた。でも、仕返しとばかりに雪夜さんはオレの鼻に噛みついてきて。
「っ…ん、雪夜さんっ!」
甘噛みだから、痛くはないけれど。
なんだか悔しく思えたオレは、ぷーっと頬を膨らませる。そんな膨れっ面のオレに、雪夜さんは優しさいっぱいの表情で微笑んでくれた。
「ったく、お前は可愛いすぎんだよ」
「可愛いのは、雪夜さんの方ですよ?」
「俺が可愛いワケねぇーだろ、可愛いのは星くんだけで充分だ」
伸ばした腕でオレの髪に指を絡め、穏やかな声でそう言った雪夜さん。面白い話はできないけれど、オレは雪夜さんに話したいことが沢山あるから。
「ねぇ、雪夜さん……」
ゆっくりと話し出したオレの言葉に、雪夜さんは耳を傾けてくれて。オレが弘樹と西野君のことを話し終えるまでのあいだ、雪夜さんはオレを離すことなく静かにオレの声を聞いていた。
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