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第498話

部活の汗拭き用として、弘樹がバッグの中に入れておいたらしいタオルは、プレゼントしたときより随分と使用感が滲み出ていて。 弘樹に使ってもらえて、このタオルも満足だろうなって思ったオレは、弘樹の笑顔につられるように微笑み返す。 「良かったね、弘樹。これで少しは、今日の運気上がるかもしれないよ?」 「おう、あの人やっぱ神様だぜっ!」 さっきまでは、ついていないと落ち込んでいたのに。ただのタオルを握り締めて雪夜さんを神様だと言い、一人でテンションが上がっている弘樹は単純だと思う。 占いを信じてしまうオレも単純なのかもしれないけれど、悩んでしまうときや元気がないときほど、シンプルな考えの方が上手くいくときだってあると思うんだ。 それに、オレは単純な弘樹が結構好きだから。 できることならこのままの弘樹でいてほしいなって、そんなことを思いつつオレは弘樹と二人で学校の前で歩いてきたけれど。 校門が見えた瞬間。 オレの隣を歩く弘樹の足が止まり、門の前を小さく指さした弘樹は、ボソッとオレに呟いてくる。 「待ち伏せ……ってやつか、アレ」 弘樹が指さす方へと視線を向けると、門の前で一人で立っている西野君の姿が見えた。しっかりとコートを着込み、手袋をして。佇んでいる西野君は、遠目から見ても可愛らしいけれど。 「約束は、してない……んだよね?」 もしかしたら弘樹と約束してて、待ってるって可能性もあるんじゃないかと思い、引き攣った表情で固まる弘樹にオレはそう訊いてみる。 校門まで、残り30メートルくらいの場所で立ち止まってるオレと弘樹。そんなオレたちを追い越していく何人もの生徒は、当たり前のように学校へと足を進めていく。 登校時間は、まだ余裕があるからいいけれど。 オレたちの問題はそういうことじゃなくて、弘樹を待っている西野君の存在だ。 「セイちゃん、俺がアイツと約束してたら、それは待ち伏せじゃなくて、待ち合わせになんじゃんよ」 ご最もな弘樹の意見に苦笑いを返し、とりあえず歩き出したオレたちを迎えたのは、案の定西野君で。 「おはよ、弘樹くんっ!」 弾むような明るい笑顔で挨拶をして、弘樹の横にピタリとくっついた西野君は、弘樹の腕を引いて歩き出してしまう。オレより背が小さな西野君が弘樹の横に並ぶと、余計に弘樹の背中が大きく見えて。 オレも雪夜さんの隣にいるときは、こんなふうなのかなぁ……なんて、二人の後ろ姿を眺め、そんなことを考えていたときだった。 弘樹の腕に絡みつき、後ろを振り返った西野君とオレは目が合ってしまう。なんとも気まずい空気の中でも、挨拶はしようと口を開きかけたオレに、西野君は凍り付きそうなほどの冷たい笑顔を見せてきて。 まるで悪魔のような西野君の表情を目撃してしまったオレは、朝の挨拶をすることができないまま、今日も見えない不安と戦うことになりそうだなと、首元のマフラーを強く握りしめたんだ。

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