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第499話

ざわざわと、賑やかな教室。 今日は朝から西野君と一言も話すことなく時間が過ぎて、昼休みになってしまった。 けれど、教室内に西野君の姿はなく、オレの元に届いたLINEは弘樹から西野君が弘樹の教室までやって来たというものだった。 いつもなら、弘樹がこっちの教室までお弁当を食べに来るのに。西野君はもしかしたら、オレと弘樹を会わせたくないのかもしれない。 でも……西野君と弘樹に挟まれ、気まずい空気の中でご飯を食べるくらいなら、まだ一人の方がマシなんじゃないかと考えてしまう自分が嫌になった。 西野君に、弘樹を取られたなんて思わない。 ただ、できることなら……弘樹の笑顔は、奪わないでほしいと思う。親友として勝手なことを思いつつ、オレは西野君のいない教室でお弁当の袋を開けるけれど。 ストライプのお弁当袋に、拭いきれない不安感が混ざって見えてきたオレは、急に食欲をなくしてしまって。せっかく出したお弁当をカバンの中に戻し、オレは机に伏せて目を閉じた。 意味も分からず西野君から向けられる強い敵対心は、オレの心に黒い影を落としていく。弘樹にお弁当を作ったあの日、あのとき言われた西野君の言葉が忘れられない。 オレを冷たい人間だと、そう言った西野君。 でも、そんな西野君の笑顔は驚くほどに冷めきったものだったから。 オレはきっと、西野君に嫌われちゃったんだなって。切ない気持ちと過去の嫌な記憶が脳裏に過ぎり、独りぼっちの寂しさに襲われる。 元々人見知りだったオレは、友達とのコミュニケーションを取ることが苦手で。喋ることも得意じゃないし、お人形だと言われ続けた幼い頃の記憶に、西野君からの言葉が上乗せされていく。 冷たい人間だから、オレはお人形だったんだとか。西野君の気持ちに気付けなかったオレは、鈍感すぎるのかなとか……よく分からない解釈をしながら過去の記憶に溺れそうなオレは、深い溜め息を吐いて首を左右に振った。 オレが西野君からどう思われようと、弘樹と西野君の関係にオレは口を出さないって決めたんだ。 弘樹が何を守りたいのかは、やっぱりまだよく分からない。でも、必死で西野君に合わせて付き合っている弘樹のことを考えると、心苦しいけれど……オレは、見守らなきゃって思う。 西野君のことは友達だと思っているから、できれば仲良くしたいってのがオレの本音だ。けれど、今の状況を考えると、そんな悠長なことを言ってはいられない。 寂しさや、不安。 そんな感情を吹き飛ばしてくれる雪夜さんは、この教室にいない。今は求めても仕方のない温もりが恋しくて、オレは小さく唇を噛んだ。 当たり前の日常に、張り裂けそうになる心。 学校という名のコミュニティの中で、オレ独りだけが取り残されているような気分。 独りには慣れているから大丈夫だと、そう自分に強く言い聞かせて。ゆっくりと顔を上げたオレの目に飛び込んできたのは、心配そうにオレを見つめる横島先生の姿だった。

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