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第500話
【雪夜side】
西野のことで大きな不安を抱えていた星は、一緒に過ごした週末のあいだに何度も俺に愛しているかと訊いてきて。好きじゃない相手と繋がる行為の虚しさを、俺は改めて痛感した日となった。
互いに了承済みなら、それでいいと思っていた過去の自分。抱ければ誰でもいいと、女なんて皆同じだと思っていた過去の俺は、寂しいヤツだったのかもしれない。
だからといって、今まで抱いてきたヤツらに罪悪感とかは全くないけれど。顔も名前も覚えてないようなヤツらなんて、俺からしたらどうでもいい。
そもそも、今までは目的が違う。
ヤることは同じでも、お互いが性欲処理として行為に及んでいる場合、そこに愛は不要だ。むしろ、そういった場合に恋愛感情を持ち出されると、逆に拗れてしまうことがほとんどで。
一夜限りの相手の方が、気が楽なことは確かだった。来るもの拒まずの中でも、地雷を踏み抜かぬようにある程度見定めは必須だったのも事実でしかない。
しかしながら、それで満たされるものなんて高が知れている。一時の偽りの情でさえ、俺は相手に与えることをしなかった。
それが全てで、そして現実だ。
欲を満たすためだけの行為に、自ら身を投げ売っている西野は、おそらく承認欲求の塊だろう。偽りの愛を求めても、虚しさは拭えないはずなんだが。
西野の気持ちに寄り添った星は、自分がしてる行為に不安を感じてしまったんだと思う。俺の服を着ていたのも、何度も好きと繰り返していたことも。
自分が愛されていることを確認するような星の言動に、アイツが抱えている見えない不安が見えた気がした。
自分がしている行為が、西野と同じだったとしても。男に抱かれている事実は、変わらないとしても。自分は西野と違うんだって、アイツなりに辛い思いを受け止めようとしている姿は、俺が見ていて気持ちがいいものではなかった。
それでも星は、どうにもできない思いを俺に打ち明けてくれたから。
好きだからこそ、触れたいと思えた相手は星だけで。星がこれ以上不安を抱えないような言葉を選び、気持ちがあるのとないのでは根本的な違いがあることを、俺が星に伝えてやったら安堵しきった様子で眠りに就いていたけれど。
俺がもう一つ、気にしているランからの連絡はその日も来ることがなく、週末は俺が感じ始めた苛立ちを星には知られぬよう過ごすことになってしまった。
ランが忙しいヤツなのは、知っている。
仕事人間のオカマ野郎に、休みなんてもんはない。それを重々承知の上で、俺はランを頼ったのだから仕方のないことだ。
ただ、付き合いが長いランは俺がどんな人間か、イヤってほどに把握しているから。この俺に大人しく待ってろと言ったからには、それなりの対応をしてほしいものだと思った。
しかし、俺の思いがランに通じたのか、週明けの月曜の夜にランからの連絡を受けた俺は、バイト終わりにそのままランの店へと向かうことにした。
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