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第501話
夜の営業も終了し、客のいない店内に俺は足を踏み入れる。通い慣れた店の空気感は相変わらずで、少しばかり心が落ち着いていくのが自分でも分かった。
「思いの外早く来たわね、雪夜。大事な星ちゃんのこととなると、動きも違うのかしら?」
「んなもんどーでもいいから用件話せや、オカマ」
しかしながら、ランが話し出す内容によってはすぐに苛ついてしまうのが難点である。
いらっしゃいとも言わずにニヤけた表情のランに出迎えられ、いつもの席に座った俺は煙草を咥えランを睨んだ。そんな俺の視線にも動じず、ランから差し出されたのはキレイに磨かれた灰皿とペリエだ。
それをランが話し出す合図と受け取った俺は、ランからの言葉を待つことにした。
「昌ちゃんに、私からしっかりと話はさせてもらったわ。色々と向こうの都合がつかずに、貴方を待たせてしまってごめんなさいね」
「いや、無理言ってんのは分かってるからいい……そんで、今の状況はどうなってんだ?」
「大きく進展があったのは、今日の夕方なの。元々、私から連絡を受けた昌ちゃんが動く予定になっていたのが今日だったから」
そこまで言うと、ランは残っている仕事の手を止めた。洗い物で濡れた手を拭き、カウンター越しに頬杖をついたランは俺と向き直る。
「とりあえず、昌ちゃんから西野って子に色々と話をしたらしいわ。星ちゃんが貴方に話していた通り、その子は学校内では勉強熱心ないい子みたいね。昌ちゃんも最初は驚いてたけれど、でもすぐに納得していたわ」
「ソレ、お前が納得させたんだろ。ランがどう話したかは知らねぇーけど、結局西野はどうなんだ?」
西野がどんなヤツで、横島がどう思ったかなんて俺の知ったこっちゃない。肝心なのは、今までしていたことを横島に知られた西野がどう思っているかだ。
「自分のやったことを、今は酷く反省しているそうよ……弘樹君、だったかしら?その子と一緒にいるところを取っ捕まえて、昌ちゃんが話をしたみたいだけど。西野って子は、悪気があって星ちゃんを囮にしたワケではないみたい」
「悪気がなくても、やってることは悪だろ。教師の前だからって、猫被ってるかもしんねぇーしな」
俺の言葉に小さく首を横に振ったランは、切なそうに視線を逸らす。
「その子ね、羨ましかったんですって……お友達同士仲良くしてるあいだに、壁みたいなものを感じてたらしいわ。だからって、星ちゃんを独りにさせるのは違うわね」
「星が独り?アイツら、三人でメシ食ってんじゃねぇーのかよ?」
星からは、昼メシは三人で食っているけどやっぱりちょっと気まずいって、週末話を聞いたときはそう言っていたのに。
「昌ちゃんが西野って子に話をしようと、今日のお昼に教室まで行ったみたいなんだけどね。星ちゃんは、クラスで独りだったんですって……食欲もなかったみたいで、昌ちゃんも心配していたわ」
「星は俺と違って、好んでぼっちになるヤツじゃねぇーからな。他人はどうでもいいって、俺みたいな考えがアイツの中にはねぇーんだよ」
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