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第503話

自由、と言われても。 ランの考え通り、どっちを選んでも俺に得はない。正直、西野に言いたいことは山ほどあるが。 「お前は、俺と星の関係をなんて話したんだよ。どう考えても、さっきの説明だけじゃ辻褄が合わねぇーだろ」 謝罪云々の前に、西野にまで俺の存在が知られているのが気に食わない。内心、横島のクソがと思いながらランにそう訊いた俺は、煙草の煙を吐きだした。 「入学当初の前髪の件で、星ちゃんが私と知り合いなのは昌ちゃんも知ってるから。雪夜は星ちゃんのお兄さんと同級生、星ちゃんとはそれなりに親しい知人ってことで話を済ませてあるわよ」 「その知人に謝りたいとか、アホじゃねぇーの……お前さ、後輩の昌ちゃんとやらに余計なこと言っただろ」 もし仮に西野が反省していたとするなら、まずは星と弘樹に謝罪すんのが筋ってもんだろう。それなのに、何故俺が絡んでくるのかがイマイチ理解できず、イヤな予感がした俺は煙草を咥え直す。そうして、眉間に皺を寄せた俺を見て、ランはにこやかに話し出した。 「風のうわさかもしれないけれど、昌ちゃんの高校の生徒が身売りしてるって耳にした……その話を聞いたのは雪夜からで、雪夜は私の大事な人よって、昌ちゃんには言ったからかしらね?」 「お前なぁ、ナニ勝手なコト吐かしてやがんだ……面倒事起こせなんて、頼んだ覚えねぇーんだけど」 「昌ちゃんからしたら、私は先輩よ?その先輩の大事な人に迷惑を掛けて申し訳ないって、昌ちゃんも言っていたわ。星ちゃんが、貴方と関係があると思われるよりマシでしょう?」 「だからって、俺がお前とどうこうしてると思われんのもイヤだっつーの。殺すぞ、クソ野郎」 大事な人、なんて。 いくつもの意味合いを持つ言葉で、俺を他人に紹介するのはやめてほしい。しかも、それがこのオカマ野郎の口から放たれた言葉なら、尚更イヤになるけれど。 「やれるもんなら、やってごらんなさい。貴方の大事な星ちゃんが、悲しんじゃうわよ?それに、昌ちゃんはノンケの子だからそこまで深く考えないわ」 勝ち誇ったように、腕を組み笑うラン。 確かにコイツを殺ったら、コイツのメシに惚れて込んでいる星は確実に悲しむだろう。そう思った俺には最初から勝ち目などなく、ランの言うことを大人しく聞くしかなかった。 イヤな言葉に、いらない紙切れ。 一難去ってまた一難とは、まさにこのことなんだろうが。 「いくら世間が狭いからって、男同士の関係が全てそうなるなんて有り得ない。むしろ逆でしょう?そうじゃなかったら、とっくにこの世は滅んでるわよ」 「いや、そういう問題じゃねぇーんだけど」 言葉の意味合いをどうとるかなんてのは、受け取り側の判断で大きく変わる。そこにすれ違いでも起きてしまえば、話はややこしくなる一方だ。 誤算と言うほどのことでもないが、やっぱり何処か気に食わない。その根源とも言える西野に対しての苛立ちは、募っていくばかりだった。

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