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第505話

「白石ぃー、チョコめぐんでちょ?」 「……お前まさか、今年もゼロか?」 慌ただしい毎日を過ごし、気づいたら訪れていた今日は2月14日だ。ランと話した翌日には西野が星に謝ってきたらしく、今では西野との関係も良好に戻ってきたそうで。 星の心の広さに、俺はかなり感心している。 誠心誠意な謝罪があったとしても、一度おかしな素振りを見せられたら失った信用はそうそう戻ってこないと思うのだが。 あれだけ落ち込んでいたのにも関わらず、相手を許せる心を持っている星は小根の優しいヤツだと思う。星の中では西野の存在が、比較的大きな割合で友達として居座っている何よりの証拠だ。 高校に入って、初めてできた友達だからと……できれば、その関係を大事にしたいと星は洩らしていたから。それなりに安堵している俺は、朝からバイト先のショップで康介と二人、雪が降り積もる外の景色を眺めながらダラダラと働いていた。 「白石、ゼロだからこのテンションなんだ。お前と違ってなぁ、俺はバレンタインが嫌いなんだよッ!!」 「チョコ貰えねぇーから嫌いって、単純なヤツだな。さすがバカだ、康介」 止むこともなく、しんしんと降る雪。 こんな天気だからか、いつもより客足は少ないものの。いらないチョコを届けに来る女性客の数は多く、今後の売上のためにも俺が貰わざるを得なかったチョコは、スタッフルームの紙袋の中に雑多に置かれたままになっていて。 「義理でも情けでもいいから、俺にくれりゃあいいのに。女ってこういうとき優しくねぇよな、そんで自分へのご褒美とか言って高級なチョコ買うんだぜ?」 「そりゃあ、お前より自分の方が大事だからだろ。本来の意味合い知らずに、義理とか友とかやってる方がアホだぜ」 勤務時間も終わり、仕事のユニになっているパーカーを脱ぎ、ロッカーのハンガーに掛け直して。私服のコートを羽織った俺は、一つもチョコを貰えなかったらしい康介を見る。 「お前は、欲しがらなくても貰えてっからそんなこと言えんだよッ!あーもう、全部俺に寄こせッ!!」 「どーぞ、ご自由に」 ガサゴソと紙袋の中から一つの箱を取り出した康介は、ラッピングの包装紙をビリビリに破いて中身を確認する。手作り感たっぷりのトリュフを口の中に放り込み、康介はモグモグと口を動かしながら、一緒に入っていたらしい手紙を読み始めた。 「白石君へ……えー、なになにぃー、ずっと前から好きでしたぁー、もし良かったら連絡くださぁーい。待ってまぁーすぅー、だってよ。バァーカッ、俺は浅井康介クンだっつーのッ!」 「……バカはお前だろ、ホント可哀想なヤツだな。俺宛に渡してきて、お前の名前書かれてたら逆にこぇーよ」 できればこのまま、バカで可哀想な康介と話していてやりたいところではあるんだが。 西野との待ち合わせ時間が迫っていた俺は、スタッフルームに貰った全てのチョコと康介を残してバイト先を後にした。

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