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第506話
外に出てみると、一面銀世界と化した街並みにウンザリする。出勤前にはつくことのなかった足跡、歩きづらさを感じつつも雪を踏みしめていく。
待ち合わせ場所の駅まで向かう途中、俺はコンビニに立ち寄った。吹雪の中でも星がくれたマフラーを濡らすことのないように、ビニール傘と煙草を買って。
待ち合わせ時間の5分前に、金時計の前までやって来た俺は、星と同じ制服を着た小柄な野郎に声を掛けた。
「お前がクソガキか、西野」
「貴方が、白石さん……ですか?」
やっぱり、光が真似た髪型通りのソイツ。
星よりも小さく、女みたいな西野の容姿。あの金髪悪魔が、西野は自分の魅せ方を分かっていると言ったワケがよく分かった。
星とは違い、コイツは自分の魅力を最大限に利用して生きてきたんだろう。その証拠と言わんばかりに、俺を見上げ首を傾げる姿からは、溢れんばかりの自信が滲み出ていてイヤになる。
「だったらナニ、文句あんの?」
興味のない人間、仕事でもなく猫を被る必要もない相手にまで、優しい言葉をかけてやれるほど俺はできた人間じゃない。
若干、怯えたように小さな体を更に小さくした西野は、ブンブンと首を左右に振って俺の言葉を否定した。
「とりあえず着いて来い、こんな場所じゃ話すに話せねぇーから」
そう告げた俺に、コクリと頷きあとを追ってくる西野。話の内容からして、本来なら個室がある店を選びたい所ではあるが……二人きりの状況を作ってしまったら、俺が何するか分からない。
ランから忠告はされているものの、西野の返答次第では、殴り掛かってしまうような気がしてならなかった俺は、人気が多く尚且つゆっくり話せそうなカフェへと西野を連れてきた。
先払いのこの店なら、西野を置いて俺が先に帰ることも容易い。弘樹の時とは違い、俺がファミレスを選ばなかった理由はソレだ。
お互いにドリンクのみ注文し、席に着いた俺たち。ここに来るまでは無言だった西野が俺に向かって頭を下げ、口を開いた。
「今日は、お時間を取ってもらってありがとうございます。ご迷惑お掛けして、申し訳ありませんでした」
絵に描いたような、上っ面だけの謝罪の言葉。
そもそも、コイツが何に対して謝っているのかが俺には分からない。こんなセリフを聞くために、俺がここにいるわけではないのだけれど。
「弘樹くんに、謝罪するなら青月くんと貴方にしろって言われたんです。俺よりも大事な二人に、謝ってほしいって」
俺がこの状況に追い込まれているのは、どうやら弘樹のバカのせいらしい。純粋で単純な星の親友は、ランと同様に余計なひと言を告げていたようだ。
ただ、弘樹本人は余計ともなんとも思っていないんだろう。星と西野のことについて弘樹から何度か連絡はくるものの、西野の謝罪の件に関して弘樹が俺に情報を流すことはなかった。
おそらく、これは西野が単独で決断して実行された謝罪現場だ。
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