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第508話

「自分の過去や想いを話せば、俺が同情してくれるとでも思ったのか。言っとくけど、俺はアイツらとは違って優しい人間じゃねぇーから」 泣こうが喚こうが、西野に同情するつもりはない。弘樹が好きなら、勝手に告白でも何でもすればいいとは思うが。そこに星を巻き込んだコイツに、俺はやはり苛立ちしか感じなかった。 それでも食い下がってくる西野は、流れ落ちる涙を自分の手で拭いながら必死に声を出す。 「あのっ、僕、本当に弘樹くんが好きなんです……初めて、好きになれた人なんです。生まれて初めて、信じてみたいと思わせてくれた人なんです。だから、だからっ……」 「んなモンお前の都合だろ、どれだけの人間巻き込みゃ気が済むんだ。お前が死ぬまで謝っても、俺はお前を許さねぇーから」 どれだけ謝られても、星と弘樹の仲に割って入り込んできたコイツの行動は許せたものではない。俺が大人げないと思われようが、クソだの最低だの罵られようが構わない。 なんなら、お前だって散々同じことをしてきただろうと、思うヤツだっているのかもしれないが。 「許してもらおうなんて、思ってません……でもっ」 「お前のコトなんざ、どーでもいい。二度とその汚ねぇー面俺に向けんじゃねぇー、目障りだ」 涙で濡れた瞳を捕らえ、睨みつけて吐き捨てた言葉に西野からの返事はない。黙り込んだ相手を見ているだけで嫌気がさし、俺はそんな西野を置いてさっさと店を出ることにした。 どのくらいの間、店内に居たのかは定かじゃないが。チラつく雪が止むことはなく、踏みしめた雪は沢山の通行人に踏まれて、泥が混じったシャーベット状になり醜い姿に変わっていた。 「……待ってくださいっ!!」 叫びにも悲鳴にも聞こえる、西野の声がする。 しかし、待てと言われて待っているほど俺は大人じゃない。振り返ることはせず、もちろん立ち止まることもなく、俺は歩みを進めていく。 吹雪の中、コートのポケットに右手を入れ、星から貰ったマフラーを濡らさないようさしている傘を握る左手に力を込めた俺だったが。 「お願いっ!!待って、待っ!?」 去りゆく背中に駆け寄り飛び込んできた西野は、俺のコートの裾を思い切り掴むと強引に引き寄せる。その拍子で互いに崩れた体勢をどうにかするため、俺は仕方なく傘を持ったままの片手で星よりも小さな西野の肩を使い、身体の向きを変えて体勢を整えた。 そんな俺に抱き着く様な形でなんとか立っている西野は、俺の腰に回した両手で更に強くコートを掴み、離れてはくれない。 「お願いです……やっと出来た友達を、奪わないでください。青月くんも、弘樹くんも、僕には大事な人なんです」 なんとも鬱陶しく、図々しいコイツ。 しかし、西野が星のダチであることに変わりはない。 そう思い、一瞬止まった時の流れは残酷で。 抱き着いたままの西野を引き剥がすより先に、動くことのなくなった時間は、俺と星の未来を狂わせていくことになる。

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