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第509話

【星side】 何故だかは、よく分からないけれど。 気まずい空気が漂っていた西野君から、オレは深く謝られて。嫌われてるんじゃなかったんだなって思えたオレは、独りだった寂しさを乗り越えて、西野君といつも通り話すことができている。 まだ完全に、元通りとまではいかないけれど。 徐々に本心を明かしてくれる西野君は、本当に弘樹のことが好きみたいで。なんだか応援したくなってしまうような、切実な西野君の恋心と、振り向くことのない弘樹のあいだでオレは再び挟まれている。 それでも二人の気持ちが分かる前と後じゃ、大きな違いがあるから。オレはそんな二人を見守りつつ、学校生活を送っていて。 「……あ、まだ降ってたんだ」 ふわふわと舞うように空から降りてくる雪は、まるで天使の羽みたいだ。今日の朝、登校したときはそこまで降っていなかったから、オレは傘を持ってこなかったけれど。 こんな雪の日は、寒さで身を縮めつつも、気持ちだけはとても温かに感じるものだから。クリスマスに雪夜さんから貰ったマフラーで口元を隠しても、そこは少しだけ緩んでいるような気がしてならなかった。 雪降る今日は、バレンタインデーだから。 学校が終わったオレは、兄ちゃんに頼まれたチョコレートを買うために、駅前のチョコレートショップへと向かっている。 オレがチョコを貰えないのなんて毎年のことで、いつしか欲しいとも思わなくなっていたオレは、昔から女の子が苦手だったのかもしれない。 そんなオレが愛してやまない雪夜さんは、今日もたくさんのチョコを貰っているんだろうなぁ……なんて、女性客で溢れている賑やかな店内に、なんだか場違いなオレは体を小さくしてレジにできた列へと並んだ。 母さんが欲しがっていた、ちょっぴりお高いチョコレート。いつも忙しく慌ただしい毎日でも、オレたちを育ててくれている母さんに、ちょっとした感謝の気持ちを贈りたい。そんな小さなサプライズは、兄ちゃんとオレで決めた逆バレンタインだから。 兄ちゃんから預かったお金で、そのチョコを買ったオレはバッグの中へとしまい込んでお店を後にする。 朝よりも雪が舞い、積もった白い結晶をゆっくりと踏みしめて。雪景色の街並みに浮かれ、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていたオレは、道路の反対側の店先で佇む、ある人物に釘付けになってしまった。 スラリと高い身長に、ふわふわな茶色い髪。 クリスマスにオレがあげたマフラーを身につけているその人は、どう見ても雪夜さんだったけれど。 オレと雪夜さんのあいだで行き交う車が走り去っていくなか、オレだけが抱きつけると思っていた雪夜さんに、キュッと回された誰だか分からぬ両手が見えて。 縋るようにコートを掴んでいてたその相手の肩に腕を回し、身を寄せ合うようにしている雪夜さんの姿。そんな雪夜さんが持つ真新しいビニール傘は、小さな相手が濡れないように差し出されているみたいだった。

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