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第512話

考えても分からなくて、たくさん泣いて苦しくて。 気がついたら眠ってしまっていたオレは、濡れた髪をちゃんと拭かずに寝てしまったからなのか、すごい頭痛と寒気に襲われている。 きっと体調を崩してしまったんだと思い、ベッドからフラフラと抜け出して。寒さに震える身体を、なんとかして引きずり、オレはとりあえずリビングへと向かうことにしたんだ。 静か過ぎる部屋と暗い階段で、もう夜も遅いことを認識したオレは、まだ電気がついたままのリビングの扉をゆっくりと開ける。 暗闇から明るい部屋に入り、眩しくて目を細めるけれど。リビングにいたのは兄ちゃんだけで、なんとなくオレは安心した。 母さんや父さんに心配されても、オレは事情を説明できないだろうと思ったから。 けれど、兄ちゃんはテーブルに乗り切らないほどのチョコレートを並べて、イスの上に立ってスマホを構えていた。 同じ兄弟なのに、どうしてこうも差ができてしまうんだろう。毎年大量のチョコレートを貰ってくる兄ちゃんは、オレや他人には優しいけれど、優さんには子供っぽくて性格が悪い人なのに。 それでも、やっぱり兄ちゃんは綺麗だなぁって……オレがぼーっとした頭で兄ちゃんを見ていると、兄ちゃんはイスから飛び降りて、ふらつくオレの身体を支えてくれる。 「せいっ、大丈夫!?」 優しい兄ちゃんの問いに首を横に振ったオレは、目の前にあるソファーに転がり込んだ。そんなオレの額に手を当てた兄ちゃんは、落ち着いて対応してくれて。 「なかなか起きないと思ったら……酷い熱、ちょっと待っててね」 ひんやりとした兄ちゃんの手が気持ち良く感じたのに、兄ちゃんはすぐにオレから離れてしまい、代わりに差し出されたのは体温計だった。 「……兄ちゃん、寒い」 身体はとても熱いのに、体感は寒くて頭がガンガンする。 「今、ブランケット持ってきてあげる。とりあえず先に熱計って、あとは水分ちゃんと取って……ご飯は?食べれそう?」 「いらない、食べたくない」 オレが体温を測っているあいだに、兄ちゃんは色々尋ねながら、スポーツドリンクとブランケットを持ってきてくれた。ふんわり暖かいブランケットに身を包んでも、心細さは変わらない。 「ご飯以外も、なにもいらない?ゼリーとかなら食べれそう?俺、今からコンビニ行って買っ……」 そう言って、再びオレから離れてしまいそうな兄ちゃんの手を掴んで、オレは兄ちゃんを引き止める。なんだかとても寂しく感じてしまうのは、体調が悪いせいだと……そう、オレは思うことにして。 「何もいらない。お願いだから、独りにしないでっ」 思った以上にか細くて、今にも泣き出してしまいそうな声で言った言葉。それは、兄ちゃんを引き止めるためのものだったけれど。本当は、雪夜さんに対する思いが隠されていることを、オレはこの時……兄ちゃんに、素直に話すことができなかった。

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