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第513話
見事に風邪をひいたオレは、兄ちゃんの看病のおかげもあって、翌日には頭痛も寒気も治まっていた。でも、まだ微熱があるからと学校を休むことになってしまったオレは、自室のベッドで横になり天井を見つめている。
テスト前の授業だから、本当は学校を休みたくなかったけれど。体調だけじゃなく、心も疲弊してしまっている今のオレには、休息が必要なのかもしれない。
それに、学校へ行けば西野君がいるから。
できれば今は会いたくない相手と、顔を合わせずにいられるのなら……きっと、その方がいいと思ってしまうオレは悪い子だ。
気持ちの整理なんてつかないし、そもそも意味が分からないし。分からないのに、オレは事実だけを知っているから。
昨日の出来事から一夜明け、ただショックを感じているのが情けなくなってきたオレは、真っ白な部屋の壁に架空の色をつけていく。
ただの想像なんだけれど、頭の中に浮かんできた事柄を一つずつ白いキャンパスに描いていくみたいに。オレは、そこに暗い色ばかりをのせていくんだ。
これから、オレはどうしたらいいのか分からないから、その道標がほしくて。ぐちゃぐちゃした思いを整理するように、オレは独りで考え始めた。
今まで起きたことや、感じてきたこと。
いつでも雪夜さんが中心でいるオレの頭は、勝手に雪夜さんの姿を思い浮かべていく。
優しく笑ってくれる雪夜さんの笑顔だったり、意地悪に口角が上がる雪夜さんの表情だったり。オレを甘やかしてくれる雪夜さんや、いつもの気怠い雪夜さんとか。
オレの中にたくさんある雪夜さんの姿に、新たに加わってしまった昨日の雪夜さんの姿。
けれど。
風邪をひいたオレを心配してくれる雪夜さんからのLINEは、朝から届いているんだ。雪夜さんに、特別変わった様子なんてないし……なんならいつもよりずっと、オレを思ってくれているような、優しくて暖かな言葉が文字となって送られてきていて。
やっぱり何かの間違いなんじゃないかと、そう思いかけて目を閉じれば、まだ真新しい記憶がはっきりとオレの瞼に映りこんできて溜め息が漏れる。
雪夜さんが何も言ってこない限り、オレからは何も訊けないし、尋ねたくないと思った。雪夜さんを疑いたくないし、オレは雪夜さんを信じたい。
それに、オレはどんな雪夜さんでも受け入れるって神様に誓ったから。西野君と雪夜さんに何があるのかは分からないけれど、オレは雪夜さんを受け入れたいって思いだけで、なんとか現実を受け止め始める。
オレが、何も知らないフリをしていれば。
きっとこの先、どんな雪夜さんでも受け入れることができる。
だから、だから、大丈夫だって。
オレは自分自身に、何度も何度も言い聞かせた。まだまだ大人になれなくて、幼いままのオレの思考。それでも、オレは雪夜さんが大好きだから。
この想いだけは変わることのないように、今回見た出来事はオレの心にそっとしまって。オレは普段通りに過ごそうと、そう心に決めたんだ。
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