516 / 570
第516話
神に祈った日から、数日が過ぎた。
オレの祈りは神様にしっかり届いているらしく、西野君も弘樹も兄ちゃんだっていつも通りにオレと接してくれている。
でも、ただ一人。
あの日から会っていない雪夜さんだけが、オレのちょっとした異変に気がついてしまったみたいで。少しの時間だけでも構わないから、今から会いに行くと言った雪夜さんを、オレは止めることができずに自室で待っている。
学校で西野君に会っても、西野君から雪夜さんのことは何も言われなくて。少し前では、西野君って何を考えているのか分からない人だったけれど。今の西野君の頭の中は、どう見ても弘樹のことでいっぱいのように見えるから。
西野君も、雪夜さんも、変わらない二人で。
ここ数日のあいだは、なるべく雪夜さんにも気づかれないように、声を聞くことも控えて文字だけのやり取りをしていたのに。
雪夜さんはオレが感じてる不安な気持ちに、やっぱり気づいてしまうんだ。
でも、気づいてくれているのなら。
どうして、あの日のことは何も言ってくれないんだろう。本当はすごく会いたかったし、ぎゅっと抱きしめてほしいとも思っていた。
だけど。
雪夜さんを恋しく思う気持ちは、変わらなくて。オレだけの雪夜さんだって、思いたくて……あの日見た現実から目を背けるように、オレの心は必死で雪夜さんを受け入れようとしていたから。
しなくていい我慢をして、普段通りでいることを心掛けて。もしものことは考えないように、寂しさや不安を感じていないフリをして。
そんなふうに過ごしてきた、数日間。
そのあいだ、雪夜さんがオレから離れてしまうんじゃないかと……ほんの僅かでも思ってしまうことが、オレはどうしようもなく恐かった。
真実はいつもひとつだって、どこかの名探偵も言っているけれど。でもオレは、その真実を知るのが怖くて。きっと、今日も自分の気持ちに嘘をつくんだと思う。
心は、広く持たなきゃいけないんだ。
雪夜さんに甘えすぎているだけじゃだめだから。だから、大丈夫だと笑って……雪夜さんに、大好きだよって伝えよう。
そう思い、家の裏の公園へと出てみれば。
そこには、やっぱりいつも通りに煙草を咥えて待っている雪夜さんの姿があった。
「こんばんは、星くん」
「……雪夜、さん」
挨拶をして、煙草の火を消した雪夜さん。
心配して会いに来てくれた雪夜さんに、オレは上手く笑えているんだろうかと不安になる。少しずつ縮まる二人の距離に、だんだんとオレの鼓動は早くなって。
目の前にいる雪夜さんが、堪らなく恋しくて。
でも、頭の中では雪夜さんと西野君の、あの日の姿が浮かんでは消えてを繰り返す。
雪夜さんとオレとの距離がなくなり、大好きな香りが強く鼻を掠めたとき。抱きしめてほしいはずのその手で触れられたオレは、このとき初めて……大好きな雪夜さんを、拒絶してしまったんだ。
ともだちにシェアしよう!