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第518話

【雪夜side】 星が風邪をひいた日から、徐々に感じ始めたちょっとしたアイツの異変。それは、文字だけのやり取りの中に隠されていた。 通常、星から送られてくるLINEは長文が多い。その日にあった出来事や、感じたままを伝えようと文字にしているから。ある意味、日記のようなLINEを俺は基本的に毎日受信している。 けれど、ここ最近はその長い文章がなくなり、星が何を考えているのかよく分からない日々が続いていて。 なんとなく、だが。 言葉の節々に避けられているような、ちょっとした違和感を覚えた俺は、星の様子を確認するためにバイト帰りの時間を利用して星に会いに行こうと決めた。 だが、しかし。 会いに行くと伝えた時も、星は言葉を濁らせたのだ。普段なら、照れ混じりに自分も会いたかったと素直に伝えてくれるのだけれど。 今日の星に、そんな素振りは一切なくて。 やはり、どこか様子がおかしい星のことが気になりつつも、直接会ってみれば分かると、俺はそう思っていたんだが。 俺を見た星は、とても不安そうで。 いつものように抱きしめようと思った時、ソレは叶うことなく散ってしまった。抵抗ではない明らかな拒絶に、俺はショックを隠しきれていなかったんだろう。 俺が触れた瞬間、星が見せた哀しそうな表情。 苦しそうに涙を流し、ごめんと謝ってきた星。 そんな星にもう一度、触れることも抱きしめてやることもできずに。俺は星に家に戻るよう伝え、その場を後にしてしまった。 泣かせてしまったことの罪悪感と、情けない自分がどうしようもなくイヤになる。あの時、俺は星にどう接してやれば良かったのだろうか。 初めて出逢ったときよりも警戒され、しっかりと抵抗された。なんなら、それをあっという間に通り越して、今の俺は星に拒絶されている。 ただ、俺が感じていた星の異変は間違っていなかった。星に避けられているという、このどうしようもない事実だけは、だ。  解決策など、考えても答えは見つからず、車を走らせ辿り着いていた場所はランの店だった。 「星ちゃんに、避けられてる理由が分からない……その上、拒まれて泣かしちゃって。挙句の果てに、星ちゃんおいてきちゃうなんて……雪夜、貴方はなにしてるのかしらね?」 「っせぇ……」 事の詳細を確認するように、ランは俺が話した内容を復唱した。それが俺の傷を抉ると分かっていて、ランはわざと深い溜息を吐く。 「星ちゃんの心の変化に気がついて、押してもダメだったから引いてみたってとこかしら。今までが順調に進み過ぎたせいね、貴方がそこまで落ち込むのも無理はないわ」 たった一度の拒絶に、ここまでヘコむとは自分でも思っていなかったが。アイツは、俺が初めて自分から触れたいと思った相手で。その星から拒まれた俺は、アイツに声をかけてやる余裕すらなくて。 星を傷つけているのは、俺自身なんだと感じた時。涙するアイツの続かない言葉を聞いてやることが、初めて恐いと思ったんだ。

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