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第521話
「っつってもよ、アイツの中で拒絶するほどイヤな存在になっちまった俺は、どうしたらいいんだ」
「失うのことを恐れないで、星ちゃんと向き合いなさい。きっと、見えないものが見えてくるはずよ。押してダメなら引いてみて、それでもダメなら寄り添うことね」
失うことを恐れるなと言われても、そう簡単にできたら誰も苦労なんてしないんだが。
「お互いに同じ気持ちだったとしたら、星ちゃんも貴方と同じように辛いのよ?貴方に嫌われたくなくて、今頃光ちゃんに泣きついているのかもしれないわ」
ランの手元から、ロックグラスにカコンと落ちた丸氷。キレイにピタリと収まるソレは、酒を注げばそのうち溶けてなくなってしまうけれど。
「そんな顔しないで、雪夜。大丈夫、星ちゃんは貴方が惚れた相手ですもの。きっと、何かしら理由があって、今は貴方を受け入れる余裕がないだけよ」
「……だと、いいけど」
薄まった酒は、好まない。
美味いもんは、やっぱり美味いうちに飲み干してしまいたいから。それでも、その味を知って分かることがあるのなら、時間を掛けてこそ見えるものがあるのなら。
……俺を拒絶したアイツの気持ちに、俺はちゃんと向き合ってやんねぇーと。俺が落ち込んでる暇なんて、ねぇーな。
止まっていた頭が徐々に動き出し、へこんだ心は一筋の光に包まれる。一度の拒絶は俺にとって永遠のように感じたが、アイツにとってはそうじゃないのかもしれない。
何かが原因で、何処かに理由がある。
アイツの隠された本心に触れることができれば、解決策は必ず見つかるはずだ。
直接触れることができるカラダはもちろんだが、目には見えないアイツの心だって俺が抱きしめてやりたいと思うから。
やっぱり俺には星しかいないと、当たり前の答えが見つかり苦笑いを漏らした俺は、ランから差し出されたロックグラスに手を伸ばす。
酒に溺れるつもりはないが、今日は飲んで落ち着こうと、そう思った時だった。
カウンターの上に置いたスマホが、低い音を響かせる。相手が誰かを考える余裕もなく、通話ボタンをタップした俺は、その相手の声に息を呑んだ。
『あ、ユキ?お前、今すぐ俺ん家来い』
そう一言だけ伝え、向こうからさっさと切られた通話。声の低さと口調から、金髪悪魔がお怒りなことは明白で。
「やっべぇー、一番ヤバいヤツ怒らせちまった」
そう呟いた俺を見て、ランは何も言わずにまだ飲んでいないロックグラスを下げてしまう。
「光ちゃんから、かしら……行ってきなさい、雪夜。まだ飲む前で良かったわ、飲酒運転で捕まっちゃうことろだったわね」
「ラン、わりぃーな。それと……ありがと」
「今度は星ちゃんと、二人でお店に来てちょうだい。それで、チャラにしてあげるわ」
「あー、俺が悪魔に殺られなかったらな」
苦笑いでもキレイなランの笑顔を背に、俺は飛び出すようにしてランの店を後にした。
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