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第523話
悪魔の瞳から怒りの色が完全に消え、深く息を吐いた光はゆっくりと話し出す。
「せいは、泣き疲れて寝ちゃったの……まぁ、だからユキちゃん呼び出したんだけどね。せいが俺に話してくれたのは、ユキちゃんが会いに来たことと、もうユキに会えないって一言だけ」
きっと、泣きじゃくり上手く説明もできない中で、星が辛うじて光に伝えた言葉が誤解を招いたんだろう。
でも、その誤解を生んでくれて正解だ。
何故、星が俺を避けているのか、拒んだのか。肝心なことは、まだ謎に包まれたままだが……一つだけ、見えないものが見えた気がする。
俺はその予感を確信に変えるため、俯いて俺から視線を逸らした光に、こう問いただした。
「会わない……の、間違いじゃねぇーんだよな?」
ただの言葉の綾かもしれないが、そうでないかもしれない。伝え方は人それぞれだが、少しのニュアンスで捉え方は大きく変化するものだから。俺は僅かな勘に賭け、光からの言葉を待つ。
そして。
「会えないって、言ってた。俺が理由訊いても、せいはそれ以上答えてはくれなかったけど……でも、そう言ったのは確かだよ」
やっぱり。
俺は心から、アイツに拒絶されているワケじゃない。たった一言、星が光に洩らしたその言葉に寄り添い、本心に触れる。アイツは、まだ心のどこかで俺を求めてくれている。
会わないとは、言わなかった星。
会いたくても会えなくて、受け入れたくてもそうできなかった理由を、星は光にさえ打ち明けることができなかったみたいだが。その根源を俺が見つけ出しさえすれば、自ずと答えに辿り着く気がした。
星が風邪をひいた日、俺が違和感に気づく前……俺は一体、アイツに何をしたんだ。
何度かジッポのフタを開け閉めし、過去のものになりつつある記憶を必死に呼び起こしていた俺と、何処か寂しそうにうっすら笑った光。
「こうなる前に、俺が気づいてやるべきだった。毎日顔合わせてたのに……あの子、大きくなったんだね。こんなふうに、せいの成長を感じたのは初めて」
気づくことができなかった自分を悔みつつ、アイツの成長を感じたと話した光は、暗闇の中で輝く髪を耳にかけ、俺に語りかけるように言葉を発した。
「人間、誰しも大人になれば、心の内を隠して生きていくようになる。それは悪いことじゃないし、それが出来るようになったせいは一歩大人に近づいたんだと思う。けどね……せいには、俺みたいになってほしくないんだ」
「光……」
「ユキ、せいにはお前が必要だよ。どうしてせいがユキを拒んだのか、今は俺にも分からないけど……あの子は、俺よりユキを選んだの。だからね、せいの気持ちに触れられるのはユキしかいないんだよ」
星の兄として、そして俺の友人としての光からの言葉が胸に響いていく。
星と同じ、優しさの色を含んだ光の瞳。
そこに混じる感情は、言い表すことができないほど、いくつもの想いが隠されていた。
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