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第525話
星に拒絶されたあの日から、1週間以上が経過したけれど、星くんからの連絡はないままで。俺からもう一度会いに行こうとか、何度も考えたが……星に探りを入れた光から、今はそっとしておいてやってほしいと言われてしまい、俺は身動きが取れずにいる。
でも、どうやら俺と光の考えは正しかったらしく、混乱気味の星を光が宥めている最中らしいから。星が落ち着いたら、アイツから俺に連絡させるようにするって……光は、そう言っているけれど。
気持ちをぶつけ合うような言い合いをしたワケでもなく、あの日の星と交わした言葉は謝罪のみで。互いを想うばかりの俺と星は、今もすれ違ったまま。
それでも、やらなきゃならないことはあって。
心の内をひた隠し、俺はコーチとしての仕事を終えると、誰もいなくなったフットサルコートで一人、ボールと戯れていた。
触れていないとすぐに感覚が鈍るのが怖くて、おチビさん達のコーチの役目を果たした後は、こうして少しだけ練習する時間を作ってはいるのだが。
「あ……またミスった」
ゴールに狙いを定め、左足で上手く蹴り上げたハズのボールは、ゴールポストに当たって俺の元に返ってくる。いつもなら高確率で決まるシュート、それが今日は何回打ってもゴールに嫌われてしまう。
「シュートは枠に入れねぇーと意味ねぇーのに……ったく、こんなんもできねぇーなんてコーチ失格だな」
転がってきたボールを爪先で触れ、やっぱり足に収まらないソレを何度かリフティングし、思ったことを呟いていた俺は、コートの中に人影あることに全く気づかなくて。
「それは違いますよ、雪君」
俺には足音さえ聞こえてこなかったのに、いつの間にか俺の背後からそう声を掛けてきたのは、俺が目指すべき人だった。
「……竜崎コーチ、お疲れさまです」
リフティング中だったボールを一度地面に落とし、足裏に収めて。俺が竜崎さんと向き合い頭を下げると、竜崎さんはいつもと変わらない穏やかな笑顔を見せる。
「技術があるからと言って、指導力がそれに比例するわけではありません。コーチ失格なんてことはないので、大丈夫ですよ。ただ……今日の雪君は、ボールから嫉妬されているのではありませんか?」
「ボールが、嫉妬……ですか?」
言われたことがイマイチ理解できずそう尋ねた俺に、竜崎さんは俺の足元にあるボールをパスするようにジェスチャーのみで指示してくる。
それに従い、俺は竜崎さんの右足に向かい軽くボールを転がした。
「ボールは友達、これは有名ですが……ボールは世界一嫉妬深い女だと、そう言ったブラジルの選手の言葉があるんですよ」
お互い距離を取り、何度かパスパスを繰り返していく。俺がトラップしやすい位置にしっかりとボールを収めてくれる竜崎さんの優しさに感謝しつつ、その技術力に敬服する。
「なんつーか、海外選手らしい比喩の仕方ですね」
二人でボールを蹴り合いながら、俺は竜崎さんの話をとても興味深く聞いていた。
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