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第528話
「優とはね、中三からの付き合いだからもう5年経つけど……そのあいだに、俺たちも色んなことがあったんだ。今みたいに優をいじめて楽しめるのは、それなりに俺たち二人で乗り越えてきたものがあるから」
初めて聞く、兄ちゃんと優さんの話。
これがどんな魔法になるのかは分からないけれど、オレは興味深々で。普段なら絶対に話そうとしない優さんとのことを話してくれる兄ちゃんは、いつもより綺麗に見えた。
「どんなに仲良しでも、すれ違うことはいっぱいあったよ。高校の時はお互い承知の上で、どっちにも彼女いたしね」
「えっ!?」
兄ちゃんにも、そして優さんにも彼女がいたって……しかも、それはお互いの気持ちを知っての上でだったなんて、驚くなと言う方が、オレには無理な話だ。
「そんなに驚くこと?まぁ、せいにしてみればおかしなことかもしれないけど……俺たちにとってはそれが当たり前で、お互いに信用を得ていくためのものだったんだ」
オレの知らない兄ちゃんと優さんの付き合い方に、オレはただただ驚くばかりだけれど。きっと、兄ちゃんがこんなことを話してくれるのにはわけがあるんだろうから。
ベッドの上で自分の膝を抱え、途切れた兄ちゃんの話を聞くためにオレは兄ちゃんに尋ねてみた。
「……信用を得るって?」
分かるようで、分からない言葉の意味。
オレよりずっと大人な兄ちゃんは、オレの問いにはっきりと答えてくれる。
「彼女がいる状況でも、互いに想い合うことが可能なのかどうか。相手を信用できるようになるまでは、疑いの連続でね……女々しいのは好きじゃないけれど、実際に彼女といる所目にした時とかは、殺してやりたいくらい腹立たしかった」
「兄ちゃん……怖い、なんか話が怖い」
いつも余裕そうな兄ちゃんでも、嫉妬に似た感情を持っていることにオレは気づいた。相手を独占したい想いは、もしかしたらオレより兄ちゃんの方が強いのかもしれない。
オレだって、雪夜さんを独り占めしたい気持ちは今でも変わらない。むしろ変わらないからこそ、オレの心は閉ざしてしまったままなんだ。
そんなオレの心を無理矢理こじ開けることはなく、兄ちゃんはゆっくりと話を続けてくれる。
「俺も人間だからね、俺はいいけど優はダメって何回言ったか分かんないや。でもね、その度に優は俺の想いに応えてくれたの。その積み重ねで今がある……信用と信頼の違いって、せいは考えたことある?」
「信用と、信頼?」
「うん。どちらも相手を信じることだけど、信用できる相手じゃなければ信頼関係は成り立たないって俺は思ってる。過去を信用して未来を信頼する、結果を受け入れ判断して頼りにする……って、ちょっと難しいかな?」
優しく微笑みそう訊く兄ちゃんは、やっぱりオレとは物事の捉え方が根本的に違って。
兄ちゃんの考え方に納得したくても、まだ幼い思考しか持ち合わせていないオレは、なんて返事をしたらいいのか分からなかった。
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