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第529話
黙り込んで考え、それでもなかなか出てこない答え。けれど、兄ちゃんの話を聞いているうちに少しずつ魔法にかかっていたオレは、塞ぎ込んだ想いの核心を兄ちゃんにつかれてしまう。
「今のせいはユキを信用できないのに、信頼したくて苦しいんじゃない?」
ただ信じてるだけじゃ不安で、でもすべてを受け入れたくて。気持ちの整理なんてつかないまま、オレは理想を追い求めていただけなのかもしれないと思った。
好きだからって、すべてが分かるわけじゃなくて。むしろ好きだから、すべてを知りたくない時だってあることを、オレは少なからず学んでしまった。
だけど、そこから一歩踏み出す勇気なんてものを持ち合わせていないオレは、オレが我慢すればいいんだと思い込んでいたけれど。でもそれが結果的に、雪夜さんを傷つけてしまったから。
「……そう、なのかも。オレ、雪夜さんを信じてるのになんだかとっても不安で……雪夜さんね、オレに何も話してくれないんだ。だから……」
たぶん、話してくれないわけじゃない。
きっと、オレが訊かないから悪いんだ。そうと分かっているのに、言葉にできなくて。オレは抱え込んだ膝のあいだに顔を埋め、大きく息を吐く。
やっぱりオレは、オレを好きになれない。
こんな自分が嫌いで、でも雪夜さんは大好きで。オレがこんなだから、雪夜さんは西野君と……って。どんどん深みにはまっていくオレの思考を止めたのは、兄ちゃんの一言だった。
「せいが気になってること、ユキにちゃんと訊いてみた?どうして、ユキちゃんはバレンタインの日に西野といたのって」
「兄ちゃん、なんでっ……」
「気づくのが遅くなってごめんね、せい。俺が母さんに渡すチョコを買いに行くように頼んだ日、せいは偶然ユキと西野って子が一緒にいる所を見た……ある程度ユキに聞いた話から、俺の憶測で出した答えだよ」
「っ……ぅ、兄ちゃ……」
オレの髪に触れる兄ちゃんの手は温かく、そのまま撫でられる感覚にとても安心する。ずっと一人で抱え込んでいた想いが溢れ出して、涙が頬をつたっていく。
「ユキはね、ああ見えても優しいヤツだから。せいとひぃ君のことを思って、西野って子に会って釘を刺しただけなの」
事の真相を知ることができたオレは、内心かなりホッとした。けれど、新たに出てきた不安感は、すぐさま疑問に切り替わる。
「じゃぁっ、どうして……雪夜さんはっ」
雪夜さんは、あの日、あのとき、あの場所で、西野君と抱き合っていたの。
「ユキに言えないこと、全部俺が聞いてあげる。だからもう、我慢しないで」
兄ちゃんがかけた魔法は、オレの心をゆっくり溶かしていく。誰にも言えなかったことをしゃくりあげながら話し出したオレを、兄ちゃんは優しさいっぱいで抱きしめてくれて。
心のうちのすべてを、兄ちゃんに打ち明けたとき。オレはどうしようもなく雪夜さんが好きなんだって、そう強く実感したんだ。
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