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第536話
普段よりも風の音が大きく聴こえてくるのは、どうしてだろう。不安な気持ちを抱きながら立ち尽くしたままのオレは、優しく微笑む長谷部君の視線を受け入れる。
「青月……お前、最近西野と一緒にいねぇよな?サッカー部の野郎がちょいちょい顔出してたけど、ソイツもいねぇし。お前一人なら、俺らに付き合えよ」
「……え?」
長谷部君に言われた言葉を理解するまでに時間が掛かり、オレは間抜けな声しか出せない。
「俺らさ、よく此処で暇潰してんの。っつっても、ただダベってるだけでケンケンと二人だとつまんねぇから、チビちゃん連れてきちった」
「マコ、お前こっから突き落とすぞ。つまんねぇのはこっちの方だ、毎回くだらねぇ話しやがって」
「ケンケンこっわぁー、んなことよりチビちゃん。もう一人のチビと何があった?お前ら最近、様子おかし過ぎだろ」
とても仲良さそうに話す二人。
でも、今度は長谷部君の隣でフェンスに寄り掛かり座り込んだ夏目君にそう言われ、カツアゲとかされるんじゃないかと思っていた自分を恨んだ。
同じ教室で、一緒に授業を受けるだけのクラスメイトにすぎないオレを、ここに連れて来てくれた夏目君。暇潰しの付き合いだとしても、開放的なこの空間にいられることがオレはちょっぴり嬉しかった。
でも、西野君とのことを詳しくは話せなくて。
口籠もったオレを見る二人は、顔を見合わせる。
「あぁ……なんつーか、言えねぇようなことがあったワケ。まぁ、今すぐ話せって方が無理ってやつか、ケンケン?」
「だな」
「あの、すみません……」
「ソレ、まずは敬語じゃなくすこと。俺らの名前知ってんだろ?俺が健史でコイツがマコ、呼び捨てでいいし敬語なんて使わなくていい」
「そういうコト。まぁ、俺らこんなんだからさ。敬語はよそうぜ、チビちゃん」
「健史君、誠君……ありがとう」
小さく感謝を述べたオレを見て、二人は安堵したように微笑み、突っ立ったままのオレに手招きして近くに座るよう指示してきて。
二人の前にちょこんと膝を抱えて座り込んだオレに、誠君は健史君を指さしてはにかんだ。
「ケンケンはさ、こんな顔して頭良さそうに見えっけど、コイツすげぇバカなんだよ。今回のテストも補習ばっかだしな、意外だろ?人は見かけによらねぇんだ」
「それを言うなら、マコの方が意外だろ。そんな成りして、必須科目は学年トップとか頭おかしい」
見た目が怖い誠君は、本当はとっても頭が良くて。どう見てもバカには見えない健史君は、どうやらおつむが弱いらしい。
オレから見ると、言い合っているように思える二人。でもきっと、とっても仲がいいんだ。その仲に、オレが割って入ることはできないけれど……オレを気遣ってくれる二人は、思っていたより悪い人じゃないみたいで。
二人のやり取りを見ていたオレは、小さな笑みを零していた。
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