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第537話

クラスメイトなのに、何も知らなかった二人のこと。健史君と誠君は、どうしてこの学校に来たんだろうって……ふと浮かんだ疑問をオレが二人に訊いてみると、先に答えてくれたのは誠君だった。 「俺ん家さ、親父がバー経営してんの。俺が小三の時に母ちゃん事故で死んじまってなぁ……俺一人息子だし、親父の後継いでやりたくて」 「マコ、何カッコつけて話してんだ。何してても構わねぇから後継いでくれって親父さんに言われたんだろ」 「あー、そうとも言う。んでも今は、俺が後継いでやりてぇなって思ってんだよ」 「似合わねぇことほざいてんじゃねぇぞ」 少しだけ照れ臭そうに話してくれた誠君に、健史君は鋭い眼差しで冷やかにそう言うけれど。辛い過去があるのに、自分の気持ちを伝えてくれた誠君は、かっこいいなと思った。 「あ、あのっ……健史君は、どうしてこの学校に?」 二人の会話を遮って、オレが健史君に尋ねてみると、健史君はそっぽを向いたまま話してくれる。 「俺は、母親が離婚してシングルだから。手っ取り早く手に職つけて楽させてやりたいっつーか……まぁ、なんとなく」 オレの想像していた以上に、誠君も健史君もこの学校を選んだ目的がはっきりしていてオレは感心する。でも、誠君と視線を合わせようとはしない健史君を見て、誠君は口元を緩ませオレに近寄りこう言った。 「ケンケンはぁ、頼むから高校だけは卒業してくれって、母ちゃんに頭下げられたかッ……ぅ、いってぇッ!」 「アホみてぇに、耳に安ピンつけてるお前が悪い」 楽しそうに笑っていた誠君のピアスを思い切り引っ張り、痛さに喚く誠君を見て今度は健史君が笑う。荒いやり取りをしているけれど、この二人は悪い人じゃないんだなって感じたんだ。 見た目だけで怖そうだと、二人のことを勝手に判断していたオレも悪かったと思う。イメージとは大きく異なっていた二人の優しさは、とても温かいものだったから。 「二人とも、家族想いの優しい人なんですね。ずっと近寄り難くて怖かったけど、そのイメージがなくなりました」 素直な気持ちを言葉にしたオレは、睨み合っていた二人に笑われてしまった。 「チビちゃん、素直過ぎ」 「青月、見た目悪いのはマコだけだから」 「ハァ?ケンケンも充分こぇよ」 「もう今は、二人とも怖くないです。こんなオレが話せる相手だと思ってなかったから、なんだかとっても不思議な感じですけど」 「俺ら教室にいねぇ時は、高確率で此処にいっから。チビちゃんも、暇な時あったら遊びおいで」 誠君の言葉に、隣にいる健史君も頷いてくれる。 一年生最後の、三学期の終わり。 今までなんの接点もなかった二人と、オレは知らなかった世界で過ごすことができて。 風が吹き抜ける屋上でも、寒さを感じずにいられるのは、きっとこうやってくだらないことで笑い合える場所だからなんだろうなって、オレはそんなふうに感じていた。

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