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第538話

誠君と、健史君と。 一限が終わるチャイムが鳴るまでたっぷり話し込んだあと、オレは二人から言われた通りに、体調が悪かったから保健室で休んでいたと担任の先生に嘘をついた。 普段真面目なオレだから大丈夫だって、二人が言っていたことは本当だったみたいで。先生やクラスメイトに疑われることもなく、オレは残りの授業を受けることができたけれど。 二人は結局、教室に戻ってくることのないままで。居心地のいいあの場所で、きっと二人で睨み合いながら笑っているんだろうと思った。 話さなきゃ、分からないことがたくさんある。 それは、どんな距離感の相手でも変わることはないんだと、そう実感できた二人との時間。 オレと雪夜さんも、あの日に謝罪だけじゃ伝わらない想いを話せていたなら、お互い傷つくことはなかったのかもしれない。 けれど、それに気づけたことは大きくて。 日に日に少しずつ春が近づいてくる気温のように、冷えきっていたオレの心も今はちょっとだけ温かく感じることができるから。 まだ完全に拭い去ることはできない不安を抱えつつも、オレは雪夜さんに会える日を心待ちにしているんだ。 でも、大きな悩み事がまだ一つ残っている。 「プレゼント、何も思い浮かばない」 学校の帰り道、呟いた声が誰かに聞かれることはないけれど。クリスマス同様、雪夜さんの欲しい物がまったく分からないオレは、ただトボトボと家まで帰るだけだった。 玄関の鍵を開けて、揺れる黒猫のチャームを握ったオレはそのまま靴を脱いでリビングの扉を開ける。 「あ、おかえり」 「……兄ちゃん」 リビングのファンヒーターの前を陣取り、ゴロゴロとカーペットの上を転がる王子様。学校帰りのオレを見て、ふんわり笑った兄ちゃんは首を傾げて尋ねてくる。 「ユキちゃんへのプレゼントは、決まった?」 雪夜さんに会うことを兄ちゃんには話したけれど、その肝心なプレゼントは決まっていないままで。 「ううん、全然決まらない」 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、兄ちゃんの問いに首を横に振って答えたオレがしゅんとしていると、兄ちゃんは何故か嬉しそうにオレに近づいてくる。 そうして、ペットボトルを持ったオレの手とは反対の手を兄ちゃんに掴まれ、オレの手のひらの上に兄ちゃんの拳が重なった。 「プレゼント決まってないならコレ、せいにあげる」 そう言われて兄ちゃんが握っていたものを確かめたオレは、手のひらの上に乗ったピンク色のリボンをまじまじと見つめてしまう。 特に変わったところのない、ただのリボン。 でも、兄ちゃんは得意気に笑っていて。 「コレはねぇ、魔法のリボンなんだよ?ユキとの蟠りが解けたらコレを首に巻いて、それでユキに呪文を唱えれば……このリボンに、素敵な魔法がかかるから」 「……なんか、イヤな予感しかしないんだけど」 「せい、そんなに不安がらなくても大丈夫。ユキが世界一喜ぶプレゼントだから、安心して?」

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