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第542話
「雪夜さんはどうして、よりによってバレンタインの日に西野君と会ってたんですか?」
初めて身体を重ねた時のように、緊張して。
でも、それ以上に蕩けきった身体は雪夜さんを欲しがって。久しぶりにひとつになったオレと雪夜さんは、その行為の後に少しの仮眠をとり、今は二人でお風呂に浸かっている。
「あー、西野が指定してきた日がその日だったから。アイツ、今までやってたコト反省してファミレスでバイトしてるらしい」
「西野君がアルバイト、ですか?」
バレンタインのあの日から、ずっと避けていた西野君のこと。でも、オレが知らない情報を雪夜さんは知っているようだ。
「アイツ、身体売るのやめたんだとよ。少しでも弘樹に振り向いて貰えるようにバイトし始めたのはいいけど、シフトの都合でバレンタインのその日しか時間取れなかったらしい」
二人で入ると狭いバスタブ。
オレを後ろから抱きしめて、そう話してくれる雪夜さんはオレの肩に顎を乗せリラックス気分だけれど。
「西野君は、本当に弘樹が好きなんだ」
呟いたオレの声に反応した雪夜さんは、オレの髪を耳にかけて遊んでいる。
「そうらしい。まぁ、その話聞く前に俺が席立っちまったから、アイツ形振り構わず追っかけてきたんだよ」
「それで、オレがその現場を目撃したってことですね……あんな雪の日に思い切り走ったら、誰だって滑ります」
「だからって、他人のことを後方から思い切り引っ張るか?」
「いや、まぁ……でも、それだけ西野君は、弘樹が好きで変わろうと努力してるってことなんじゃないですか?」
オレが色々と悩んでいたあいだに、西野君は弘樹に振り向いてもらいたくて必死で頑張っていたんだ。オレに敵対心があるように思えたのも、弘樹を独り占めしたいって西野君が思っていたからなのかもしれない。
「あのバカ犬がその思いに応えるかどうかは、また別の話だけどな……んなことより星くん、風呂から出たらメシにすっけどオムライスでいい?」
オレの耳元で、優しく尋ねてくれる雪夜さん。
すれ違っていた日々が嘘のように感じてしまうくらい、いつも通りの空気感がオレと雪夜さんに戻ってくる。
「オムライスがいいです……あ、でも食材あるんですか?」
「んー、お前が来るって分かってたから材料は買ってあんの。さっき星くんが寝てる間に下準備は終わってっから、風呂出たらすぐできるけど」
久しぶりに雪夜さんの手料理が食べられると思うと、オレはそれだけでワクワクするのに。オレの好きなものを選んでくれていた雪夜さんはさすがだと思った。
ふわふわなオムレツ、シーフードとマッシュルーム入りのケチャップライス。雪夜さんが作ってくれるオムライスは、オレの中で一番美味しいオムライスだから。
「雪夜さん、大好きっ!」
狭いバスタブのなかで身体の向きを変え、そう言って思い切り雪夜さんに抱き着いたオレを、雪夜さんは力強く抱きしめてくれたんだ。
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