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第545話
機嫌が直った星と朝食を摂り、夕飯は俺のリクエストで唐揚げを作ってくれるらしい星くんと買い物へ行って。近所のパン屋で昼飯を買い、そのついでに、ガトーショコラを購入した。
これと言って特別じゃない時間を過ごしてはいるが、俺はかなり充実した1日を送っている。飛鳥に連れ回されることもなく、華に付き纏われることもない……こんなに穏やかで安らげる誕生日は、久しぶりだと思った。
ただ、俺の隣でソワソワしている星くんは、普段より落ち着きがなくて。
「ホントに、お祝いしなくていいんですか?」
3時のおやつでラスクを頬張る星は、俺にそう尋ねてくる。甘めのカフェオレも、おやつのラスクも用意したのは俺だからか、納得いかない様子の星くんはしゅんとしてしまった。
「何でもない日が特別だから、そんな顔すんな。お前がこうして傍にいてくれんのが、俺は一番嬉しい」
「雪夜さん……」
できることなら、このまま星くん喰っちまいたいと、その言葉は星に告げずに俺は煙草に火を点ける。
誕生日だからって、どうこうしたいワケじゃねぇーし、いや……そりゃ、ヤることはヤりてぇーんだけど。
そんな不純な思考を巡らせる俺と、ラスクを咥えたまま席を立ち、何かを抱えて俺の隣に戻ってきた星くん。珍しく行儀の悪い星だが、その姿も可愛いから良しとしよう。
「コレね、兄ちゃんと優さんから雪夜さんへのプレゼントらしいんです。忘れちゃうといけないから、今渡しておきますね」
そう言って、星から渡された紙袋。
光と優からのプレゼントは、毎年コンドームと決まっている。あの悪魔たちはナニを思ってソレを俺に贈るのか定かではないが、性欲の塊だと俺を罵る二人らしいプレゼントに、毎年文句を言わない俺って優しいヤツだと思う。
「今年は中身が違うから、ちゃんと確認するように伝えてねって、兄ちゃんに言われました」
「そっか、んじゃ開けてみっか」
幸せそうにラスクを食べてる星の横で、紙袋の中身を確認した俺から深い溜め息が漏れていく。少しは真面なプレゼントを寄こせるようになったのかと、そう思った俺がバカだった。
……中身違うって、ローションかよ。似たようなもんじゃねぇーか、あのバカップルめ。
星に気づかれぬように今度は俺が席を立ち、クローゼットの中に紙袋ごともらったばかりの物を隠した俺は、不思議そうに俺を見る星と目が合った。
「中身は、何が入ってたんですか?」
こんな時、俺は星の純粋さを恨んでしまう。
下心丸出しな二人からのプレゼントを星に言えるワケもなく、適当に言葉を濁した俺は、星の左手首を掴んだ。
「……コレ、ナニ?」
細い手首に巻かれた、ピンク色のリボン。
星が着ている袖の長いパーカーで、隠れていることがほとんどだったが。星が腕をまくった時に見えたソレは、あり過ぎる存在感を主張したままで。
「あのっ、コレは……」
単純に気になって訊いた俺とは違い、星は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
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