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第547話

「星くん、なんか手伝うコトあるか?」 キッチンに立ち、夕飯の準備を始めた星くん。俺はその背中に声を掛け、吸っている煙草の火を消そうとするけれど。 「誕生日のときくらい、全部オレにやらせてください。雪夜さんはね、毎日働きすぎなんですよ」 急に始まった星からのお説教に、俺は戸惑いを隠すことなく苦笑いする。 「働き過ぎっていうのはな、誕生日でも関係なく必死で働いてるヤツのことを言うんだよ。俺、今日休みだから働いてねぇーし」 そう言いながらも、煙草の火を消して。 愛らしい恋人を抱き締めようと思い、俺がキッチンへ向かうと、星は頬を膨らませて俺を睨んでくる。 「そうですけど、そうじゃないんです。えーっと、なんて言うか……あ、頑張りすぎなんですよ。雪夜さんは、もっと人に甘えてもいいと思います」 食べやすい大きさにカットした鶏腿肉を、星くんはボールへと移している。そんな恋人を背後から抱き締め、俺は星の肩に頭を乗せた。 「ん、じゃあ甘えさせて」 「……雪夜さん、オレの言ってる意味まったく分かってないでしょ?」 ぴたりと星の手が止まり、膨らんでいた頬は元通りになるけれど。困ったような声色で問われた言葉に、俺はしっかり応えてやろうと思った。 「星の言ってる意味も、心遣いもちゃんと理解してる。すげぇーありがたいことだと思うし、もちろん感謝もしてる。ただ、世の中には俺より必死な人間がいるってだけだ」 「それじゃあ、ゆっくり休んでてくれればいいのに……どうして雪夜さんは、オレの言うこと聞いてくれないんですか?」 「俺にとっては、お前にこうして触れてる時が一番甘えられるから。星が傍にいるだけで、充分すぎるくらいに安らげんの」 「でも、今日はせっかくのお誕生日なのに……」 「納得、できねぇーか?」 こくりと頷いた星は、俺の腕の中から抜け出してしまった。下味を漬けるために調味料を取り出し、手際よく調理をする星くん。 寂しそうな顔をしている星の横顔も可愛いけれど、できれば笑顔でいてほしい。もっと分かりやすく、星が納得できる言葉で俺の気持ちを伝えてやるとするならば……おそらく、正解はこれだろう。 「俺が、お前から離れたくねぇーんだ。俺のために唐揚げ作ってる星くんの姿、近くでちゃーんと見とかねぇーと損だろ……なんたって、今日は俺の誕生日だからな」 「……もう、雪夜さんのばか」 悪態を吐きつつも、ふにゃりと緩んだ頬は星の機嫌が直った証だ。星くんの真面目な気遣いを受け流すのは、バカなくらいがちょうどいい。 「星、愛してる。お前以外に何もいらねぇーから、お願いだから傍にいさせて」 それじゃなくても、ここ最近は連絡を取ることさえままならなかったのだから。星に甘えていいのなら、俺は愛おしい恋人を離したくはない。恋しく思っていた安らぎの時間が、たまたま誕生日と重なっただけだ。 鬱陶しいと怒られることを覚悟の上で、調理のために俺の腕から抜け出した星をもう一度抱き 直す。 「本当に、この体勢好きなんですね。オレも雪夜さんが大好きなので、そこでいい子にしててくださいね?」 「ありがと、星くん」

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