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第555話

「んぁ、雪夜さんっ…スマホ、鳴ってる…」 俺が欲求に負けそうで、本格的に星くん喰っちまいそうになりかけた時。スマホのバイブレーションの音が部屋に響き、俺の動きが止まる。 こんな時に誰だよと思う反面、助かったと思った俺は、星の頭を軽く撫でてからテーブルの上のスマホを手にすると、煙草に火を点つけベランダへ出た。 一度煙りを吸い込んで吐き出し、風に流されていく紫煙を眺めて、俺は通話ボタンをタップする。 「ナニ?」 『ナニじゃねぇだろ、クソガキ。お前の誕生日にわざわざLINE送ってやったのに、返事ねぇとか殺すぞ』 電話越しで吠えている飛鳥の声を聞きつつ、相手が兄貴で良かったと思えたのはこれが初めてだった。 「あー、わりぃー兄貴」 『やーちゃん、ヤケに素直じゃねぇか?』 「いや、なんつーか……兄貴のおかげで煙草没収されずにすんだ、一気に頭冷えたわ」 相手が兄貴じゃなかったら、俺はきっとこうして電話に出ていない。出なきゃ後々もっと面倒なことに成り得る飛鳥だったから、俺の衝動を止めることができたんだろうと思った。 昨日あれだけヤったてのに、これ以上星くんの身体に負担をかけるワケにはいかない。唯でさえ、腰痛いってベッドで丸まってちっさいカラダを更にちっこくしてんだし。 そんなことを思い反省中の俺と、電話越しでライターを擦り最初の煙りを吸い込んだ飛鳥。柔らかい呼吸音がして、その後に聞こえてくるのは俺を鼻で笑う兄貴の声だった。 『ナニ、お前お預けでもくらってんの?』 今の会話の流れで、この男はどうしたらそんな質問ができるんだ。相変わらずな男の脳内は、俺には理解できないけれど。 「ちげぇー、ヤッたばっか。でも、不意討ちくらってがっつくとこだった」 俺も、どうして兄貴の問いに素直に答えているんだろう。そう思いつつ、やっぱりまだ浮かれてたんだなって、俺は苦笑いを零す。 『まだまだガキだな、やーちゃん。どうせなら抱きながら電話出ろや、つまんねぇ』 いつも通りのクズ発言か、アホウドリ。 けれど思いの外、落ち着いた声でそう言って笑う飛鳥を、俺はなんだか大人に感じて。 「誰が兄貴みたいなコトするか。アイツの声は俺だけのもんだ、俺以外のヤツに聞かせたくねぇーもん」 自分自身ガキだと認め、子供地味た独占欲を兄貴に曝け出していた俺は、急に小っ恥ずかしくなり煙草の煙を吸い込んでいく。 『ったく、可愛いこと言っちゃって。これだから、やーちゃんはほっとけねぇんだ』 「意味分かんねぇーわ……ってか、用件そんだけ?」 『なワケねぇだろ。なーちゃんがどうしてもお前に謝りてぇって、騒いでてうぜぇから電話した。今からなーちゃんに代わるから、話聞いてやれ』 なるほど。 兄貴の異様なまでの落ち着きは、華が側にいるからだったのか。

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