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第557話
「すごい人ですね、なんだかお祭りみたい」
「まぁ、祭りのようなもんだしな」
俺の誕生日から時間も流れ、予定通り俺と星が訪れた場所は、とあるスタジアム。日韓ワールドカップでも使われた会場、そんな場所に星と二人で来ることができたなんて、俺はそれだけ幸せなんだけれど。
「雪夜さんっ、クラブのマスコットがいますよ!」
まだ試合開始前にも関わらず、スタジアムのグルメを思う存分堪能したり、ホームになっているクラブチームのユニフォーム買ったりして。
俺とお揃いで嬉しいって、同じユニ姿で俺よりはしゃぐ星くんがすげぇー可愛いから。俺は早くも、至福の時を味わっていたりする。
「あ、手振ってくれたっ!」
……お前が振り返しても、相手見えてねぇーっての。
それでも、着ぐるみに向かい小さく手を振る星の頭を俺はくしゃりと撫でてやる。マスコットごときで、ここまでテンション上がる男子高校生って貴重だ。
着ぐるみの中身、絶対オッサンだろ。
クラブ支えんのも、楽じゃねぇーよなぁ……なんて。経営側の苦労を思う俺とは違い、星は純粋にこの時間を楽しんでいるように見えて。
「試合、早く始まるといいですね」
二人で並んでシートに腰掛ければ、真上からピッチが見渡せる。サポーターでもなければ、サッカーに詳しいワケでもない。けれど、そう言って俺の隣で笑う星は、期待に満ち溢れた表情をしていた。
晴れた青空の下、綺麗に整備された芝の上でウォーミングアップしてる選手達の姿を眺めて。あのピッチに立ちたいと、そう思っていた幼い頃の記憶が蘇る。
俺が初めてサッカーの試合を観戦したのは5歳の時、地元クラブチームのホーム戦だった。
通っていた幼稚園で、偶然貰った無料の観戦チケットを握りしめ、俺は飛鳥に土下座して頼み込んだんだ。仕事で忙しかったクソ親共に代わり、サッカーに全く興味のない兄貴が嫌々連れてってくれたのが最初。
湧き上がる歓声や、臨場感を体験して。
目と鼻の先にいる選手達の一つ一つのプレーに、来場した全ての人が一喜一憂する。たった一つのボールから生まれていく沢山のストーリーに、俺は幼いながらに感動したのを今でも覚えている。
それなのに、いつしか自分から諦めて遠ざけていた夢の舞台。劣等感に耐えられなくて、テレビでの試合すら観なくなった時期もある。
幼い頃の俺が、ずっと憧れていた世界。
がむしゃらに追いかけた夢は形にならずとも、今こうしていられるのは星のおかげだ。
選手が一旦控えに戻れば、スタジアム内にはなんとも言えない高揚感が溢れていく。それは、俺の隣で今か今かと、試合開始のホイッスルが鳴るのを待ち侘びる星も同じで。
「星、ありがとう」
周りの音に掻き消され、呟いた言葉が星に届いているのか分からないが。頬を染めて俺を見る星は、俺が一番好きな笑顔で幸せそうに微笑んでくれた。
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