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第558話
「オレ、まだドキドキしてる……サッカーって、あんなに迫力のあるものなんですね」
初めてサッカーを生観戦した星くんは、俺と同様で興奮がおさまっていないようで。俺たちは帰り道の車内で、白熱していた試合内容を語り合っている最中だ。
「今回は特になぁ、同県の二つのクラブチームが争うダービーだったし。どっちのクラブも、気迫が凄かったわ」
「サポーターの人たちの熱気にも、びっくりしました。ゴール裏には近づくなって、雪夜さんが言ってたのちょっと分かった気がします」
「初めてでゴール裏になんか行ったら、観戦どころじゃなくなっちまう。サポーターも十二人目の選手なんだ、一緒に戦ってる気持ちで声張り上げんだよ」
だからこそ生まれる一体感は、スタジアムに足を運ばないと味わえない。本当に心の底から楽しいと思えるような、試合展開をしてくれた選手達に感謝しねぇーと。
そんなことを思いながら煙草を咥え運転中の俺を、星くんはじーっと見つめてくる。
「オレはボール持ってる選手を追いかけてましたけど、雪夜さんはずっと全体見てましたよね?見方の違いで、分かることってあるんですか?」
「あぁ……サッカーって、常に連動してるから。ボール持ってる一人の動きを瞬時に判断して、周りの選手が動いての繰り返しなんだ。だから俺は、どう連携とるかってのを重点に置いて試合見てんの」
「そっかぁ……え、でもそれってものすぐ頭使いませんか?オレ、雪夜さんみたいな試合の見方できないです。弘樹も案外、頭良いのかも」
「アイツは頭というより嗅覚がいい方、考えなくても感じるタイプ。まぁ、実際アイツがプレーしてる姿なんて見たコトねぇーからなんとも言えねぇーけどな」
星にとってはサッカーなんて、今まで全く興味のないことだっただろうに。俺の好きなことに興味を持ってくれて、俺と同じ物を見て。沢山のことを知ろうとしていく星の姿は、とても輝いて見える。
そんな星の笑顔が、もっと輝く場所に連れて行ってやりたい。最高の時をプレゼントしてくれた星への礼も兼ねて、俺が向かっているのは家と別の場所。
寄り道して帰ったって、誰にも文句は言われないし。行き道とは違う景色だけれど、それでも……星は一度、俺とこの景色を見ているから。
あの時は、二人だけじゃなかったけれど。
偶然か、必然か……星が選んだ試合の会場がある場所は、遠回りして帰ればゲストハウスがある道に辿り着く。
そのことに星も気づいたのか、辺りを見回した星くんの顔には、驚いていますと書いてあるように見えて。
「……雪夜さん、ここって」
「どうせここまで来るなら、懐かしい場所にも行きてぇーなと思って……イヤだった?」
「ううん、とっても嬉しいっ!」
芝生が広がる公園の駐車場に車を駐め、星の手を取り二人で歩いて向かう場所は、楽しい思い出が沢山詰まった砂丘の上だった。
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