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第559話

「海、やっぱりキレイですね」 「5月はうっさいの二人いたから、今日はやけに静かに感じるけどな」 あの時と同じように、波の音と微かな潮風が香る。その景色の中にいる星は、可愛いというよりキレイだと思った。年齢よりも幼く感じる外見や内面、でも時々見せる星のこういった大人げな表情に、俺は心を奪われていく。 その辺に転がっている大き目の流木に並んで座り、俺と星の視線の先には同じ色の景色が映り込んでいて。 「ここの砂浜に絵描いて遊んだり、花火したりしたんですよね。雪夜さんが画伯だって、オレあの時初めて知りました」 「あー、そういやそうだった……ってか、星くんまで画伯って呼ぶんじゃねぇーよ。俺はな、描けてるつもりでいんだから」 「じゃあ試してみます?綺麗な相合傘でも描いてみてください、簡単でしょ?」 俺にそう言って笑う星くんは、いつにも増して挑発的で。踊らされると分かっていながらも、俺は舌打ちして足元に落ちていた木の枝を手に取ったが。 「……相合傘って、なんだっけ?」 「え、雪夜さん知らないんですか?」 なんかすげぇー乙女チックなやつ、だったか? ハートがあって、そんで三角形描いて……あと、どーすんだよ。 「いや、たぶん知ってっけど。んなもん、産まれてこの方一回も描いたことねぇーし、いきなり言われてもどんなんだったか思い出せねぇー」 ……つーか、相合傘とか男が描くもんじゃねぇーだろ。 そう思っても口には出さずに、俺は助けを求めるようにして隣にいる星くんを見る。 「おまじないするなら、一筆書きしなきゃダメなんですけど。とりあえず、まずハートを描いてください。その真下に三角を描いて……そうです。それで、描いた三角の下からその中心に一本線を引きます」 我ながら上手く描けてんじゃん、俺。 星の指示通りに描いていけば、俺と星くんの丁度真ん中に俺が描いた傘ができた。 「んで、この先は?」 「右側にオレの名前を書いて、左側に雪夜さんの名前を書いて完成ですけど……雪夜さん、どうしたらこんなに歪むんですか?」 ただの傘が、歪んでるハズがない。 となれば、問題があるのは俺が最初に描いたハートだけ。 「歪んでねぇーだろ、ハートがちょっと左右非対称なだけじゃねぇーか」 「ちょっとじゃないです。傘の上にお餅が乗ってるみたい……ははっ、雪夜さんって本当に画伯ですね」 波の音だけが聞こえる浜辺に、小さな星の笑い声が響く。それがなんとなく悔しくて、俺は初めて描く相合傘とやらを完成させるため、細い木の枝を握り直した。 「っせぇーな、んーと……せーい、俺っ」 どうよ、星くん。 初めて描いたわりには上出来だ思い、俺は少しだけドヤ顔をしてみるが。 「あ、ちょっと……名前書いてくださいって言ったじゃないですか。俺って、そのまま俺って書く人いないですよ?」 「なんでもいいだろ?俺は俺だし、星くんは星だし」

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