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第564話

「すげぇー美味いじゃん、やっぱ星くんが作るメシが一番だな。お前が作る唐揚げと卵焼き、マジで美味い」 桜がよく見える場所に、レジャーシートを敷いて。お弁当を食べながら、のんびりした時間を過ごしているオレと雪夜さん。 雪夜さんが好きな鶏の唐揚げと、弘樹のときにも入れたタコさんウインナーや卵焼き。アスパラのベーコン巻きとか、なんてことないおかずが並ぶお弁当だけれど、愛情込めて作ったソレを雪夜さんは幸せそうに食べてくれた。 こんなに美味しいお弁当が食べれられて、隣にオレがいるのは贅沢だって。微笑んだ雪夜さんの髪に、ひらりと落ちてきた桜の花びらがこときを甘く演出してくれる。 やっぱりお花見っていいなぁって、オレがそう感じていたときだった。 「あ、ちょっと……雪夜さん、のんびりしすぎです」 お弁当を食べ終えて、シートの上にできたスペースに寝転んだ雪夜さんは、オレの太股を枕がわりにするとオレを見上げてニヤリと笑う。 「いいじゃねぇーか、どーせ誰も来ねぇーし。星くんのすぐ後ろに桜があんの、すげぇーキレイでいい眺めだぜ?」 どうして、オレの頬はすぐに赤くなってしまうんだろう。何度見ても慣れない雪夜さんの笑顔は、オレの鼓動を早くさせる。 ドキドキと煩い心臓の音が聞こえて、何も言い返せないオレの頬を雪夜さんは撫でていくんだ。 「可愛い、星くん」 それなりに、オレも成長したはずなのに。 雪夜さんがオレのことを、可愛いって言うのは変わらない。そして、その言葉にオレがちょっとだけ嬉しく思ってしまうことも。 変わっているようで、変わらなくて。 でも確かに変化していくオレたちの日常は、今日の天気とよく似ていると思った。 さっきまで、晴れていたはずの空。 でも、なんだか雲行きが怪しくなってきて。 「雪夜さん……やっぱり雪夜さんは、雨男なんじゃないですか?」 二人で空を見上げ、オレが先にそう呟くと、雪夜さんは苦笑いで答えてくれる。 「山の天気は変わりやすいからな、それかマジで俺が雨男かのどっちかだ」 「オレは確実に後者だと思います。雪夜さん雨男確定ですよ、降水確率0パーセントを翻せる人なんていませんもの」 「星くんひでぇー、俺そんな雨に打たれた経験なんて……多いかもしんねぇーわ」 「とりあえず、車戻りましょ?そのうち降り出しそうですし」 オレの膝で寛いでいた雪夜さんは、体を起こしてシートを手早く片付けてくれる。もちろん、オレの荷物を持ってくれることも忘れない。 ……しかしながら、ね。 「あー、時すでに遅し……だな」 「え、あっ、ホントじゃないですかっ!?」 霧状の雨に打たれ始め、アタフタしているオレの頭の上に、バサッと降ってきたのは雪夜さんが羽織っていたジャケットで。オレの耳には、かっこつかねぇーからと、小声で言った雪夜さんの言葉が聞こえてきたけれど。 そんなところも大好きだよって、オレは雪夜さんと手を繋ぎながら心の中でそう呟いていた。

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