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第573話

「星くん、治った」 ほぼ1日中、寝て過ごしていた雪夜さん。 小まめに水分補給させたりしたのが良かったのか、オレの言いつけをちゃんと守り、お風呂で汗を流し終わった雪夜さんは、スッキリした表情をしている。 早めの夕飯で作った月見うどんも完食してくれたし、雪夜さんは元気そうな顔をして笑っているけれど。 それにしても回復が早い、この人。 ただの睡眠不足だったのかなと思ってしまうくらいに、ぐっすり眠ったあとの雪夜さんは、熱があった時の子犬さんからいつもの狼さんに戻ってしまった。 「熱は下がったみたいですけど、今日は1日大人しくしててください……って、こら……ちょっと」 キッチンで洗い物を片付けるオレの後ろに立ち、ちゃっかりオレの服の中に手を忍ばてくる雪夜さんの顔は、きっとニヤついているに違いない。 体調が早く良くなってくれて、安堵するものの。もう少しだけ、可愛らしい子犬さんの姿を見ていたかったなって、オレは思ってしまった。 「体調良くなったら、お前のコト好きなだけ喰っていいんだろ?」 雪夜さんはオレの背後でクスっと笑うと、艶っぽい声でそう問いかけてくる。オレの耳に柔らかく触れる雪夜さんの吐息が心地よくて、オレはきゅっと目を瞑った。 「なぁ、星……イイ?」 耳元で囁かれて上擦った声が出そうになり、オレは小さく首を横に振る。雪夜さんの甘い雰囲気に呑まれてしまう前に、オレはこの狼さんを止めないといけないんだ。 明日は、週明けの月曜日。 雪夜さんの家に泊まることがあっても、オレの成績が下がることはなく、学校生活も問題なく過ごしているから。週明けは雪夜さんのお家から、そのまま学校へ行くことも最近増えてきたけれど。 明日からは学校があるし、雪夜さんとこうしていられるのも明日の朝までで。この人に好きなだけ食べられてしまったら、オレはきっと明日立てないと思うから。 オレの服の中で動く雪夜さんの手を掴み振り返ると、オレは雪夜さんの淡い色の瞳を見つめ呟いた。 「学校あるから……ダメ、です」 煙草も1日我慢してくれたし、本当に体調も良さそうだから、雪夜さんには申し訳ないんだけど。今日はお預けさせなきゃ、明日のオレが泣くことになっちゃう。 それじゃなくても、昨日は車の中でしたあとにお風呂でもしてるから、オレの腰はもう砕けそうで。そのことを雪夜さんも理解しているのか、オレが掴んだ手を必要以上に動かすことはしなかった。 「今日は我慢してやるけど、次会う時覚えとけよ」 「へ?あ……はい」 「星くんいい子、明日朝何時?送ってく」 オレを包み込むように抱きしめて、そう訊いてくれる雪夜さん。このまま時間が止まってしまえばいいのにって思うけれど、望まなくても自然と明日はやってくるものだから。 「えっと、いつも通りの時間でお願いします」 そう答えたオレの唇に、雪夜さんは了解って意味が込められた優しいキスをしてくれた。

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