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第574話

「星、起きて……朝メシ、フレンチトーストできてる」 「ん……ゆきぁしゃん、はぉーほらいまふ」 雪夜さんの優しい声と部屋に漂う美味しそうな香りで目覚めたオレは、ふぁーっと欠伸をする。まだ半分夢の中で、上手いこと呂律も回らないまま朝の挨拶をして。 雪夜さんに頭を撫でてもらい、甘い口付けを交わしてから、オレはブランケットに包まったままベッドから抜け出しソファーに移動する。 寒い、眠い……と思いながら、優雅に煙草を吸っている雪夜さんの隣に腰掛けると、テーブルの上には雪夜さんが作ってくれたオレだけのモーニングセットが並んでいた。 真っ白なお皿に、とっても美味しそうなフレンチトーストと色鮮やかなサラダが乗っていて。ココット皿にはフルーツがたっぷり入ったヨーグルトと、マグカップの中の飲み物は温かいカフェオレ。 「ごゆっくりどーぞ、星くん」 「いただきますっ!」 食べる前から思わず頬が緩んでしまい、オレはへにゃっとした力無い表情のまま両手を合わせていく。 朝からこんなに幸せでいいんだろうかと思うほど、雪夜さんと一緒に過ごす平日の朝の時間は、穏やかで……そして、とても美味しいんだ。 オレは今日も小さな幸せを噛みしめて朝食を済ませると、学校へ行く支度を始めた。 雪夜さんと並んで歯磨きしたり、制服のネクタイを締めてもらったり。寝癖がついて少しだけはねている髪は、ブローしてもらったりして。 オレ一人でできることでも、雪夜さんは嬉しそうにやってくれるから……オレも、つい雪夜さんに甘えてしまう。でも、オレも雪夜さんも、なんでもないこの時間が堪らなく好きなんだ。 今から学校へ行くとは思えないほど、穏やかな時間を過ごして。家を出る前に行ってきますのキスをしたオレたちは、二人で笑い合ってから玄関の扉を開けた。 着慣れた制服姿のオレと、羽織っているスプリングコートに両手を突っ込んで駐車場まで向かう雪夜さん。 こんな格好をしているから、この人はモテるんだ。家でのスウェット姿も好きだけれど、出掛けるときにさり気なく、なんでも着こなす雪夜さんが羨ましい。 ショップのバイトに行くときは、スポーツミックスでパーカーが多め。大学に行くときは、きれい目でジャケットやカーディガンが多くて。コーチのときは、シャカシャカ素材のピステにネオンカラーのスパイク。 結局どんな格好をしてても、雪夜さんはかっこいいからモテるのは当たり前なんだって。オレが一人で再認識してるあいだに、車まで辿り着いてしまった。 「いつもの場所で降ろすけど、そんでいい?」 「はい、お願いします」 相変わらず、雪夜さんへ女の人からのアプローチはあるみたいだけれど。そんな雪夜さんを独り占めして、学校まで送ってもらうのは些か気分が良くて。 オレはちょっとした優越感に浸りつつ、雪夜さんの車に乗り込んだ。

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