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第575話
雪夜さんと離れるのは、寂しいけれど。
やることはやらなきゃダメってのが、オレと雪夜さんの決まりごとだから。
「ん、到着……次会えるのたぶん金曜だと思うから、そん時までいい子にしてろよ」
学校の裏の公園までやってくると、雪夜さんは車を止めてしまう。学校まで送ってもらうときはなるべく目立たないように、校門前じゃなくて、少し離れたこの場所で降ろしてもらうことが多くて。
「雪夜さんも、あんまり無理しないでください」
シートベルトを外し、車から降りる前にオレがそう呟くと、雪夜さんはふんわり笑って軽くオレの頭を撫でてくれる。
でも、2人だけの幸せな時間はここまでだ。
本当は、まだまだ一緒にいたいけれど。
そうも言っていられなくて、オレは雪夜さんにお礼を言うと車から降りて助手席のドアを閉めた。
オレを学校へ送り届けたあと、今日の雪夜さんはそのまま大学へと向かうらしい。雪夜さんと一緒にいるとき、大学のお友達からかなりしつこく連絡が来ていたから。なんだかんだで優しい雪夜さんは、大学に用がないのにお友達に会いに行ったみたいだ。
学校前での別れは、家まで送ってもらうときよりお互いに素っ気ない。だけど、それも気遣いの一つだから……オレは雪夜さんの車を見送らずに、そのまま校舎へ向かった。
オレが三年生なんてうそみたいだけど、この学校での生活も残り1年で。進級して新しい教室になったため、オレは四階の一番奥の教室を目指し廊下を歩いていく。
たくさんの生徒たちの、賑やかな声が聞こえる学校内。朝からみんな元気だなぁって思いながら、自分の教室の前まで来てみると、教室内から一際大きな怒鳴り声が聞こえてくる。
「だぁーかぁーらっ!!黒染めされるくらいなら、帰るっつってんのが聞こえねぇのか!!」
「聞こえてっからお前捕まってんだろ、あとピアス外せ。お前の親父さんが許しても、俺は許さねぇからな」
声の主がすぐに分かったオレは、動揺することもなく自分の席に着く。うちのクラスの人たちは、この二人が怒鳴り声を聞いたくらいじゃもう驚かなくなっていて。
「……あ、青月くんおはよう。またやってる、あの二人」
席に着いたオレにそう声をかけてきたのは、相変わらず可愛らしい容姿の西野君だ。一年のときも、二年の時も……誠君と横島先生の言い合いを、ちょくちょく目にしているオレたちには見慣れた光景だけど。
「おはよう西野君、誠君の髪色今回も凄いね。茶髪までは大目に見てくれるようになったみたいだけど……あの色は、アウトかも」
怒鳴っているのはゴールドアッシュに染められた髪をしている誠君で、そんな誠君をヘッドロック状態にして捕まえているのが横島先生。
この4月から、三年生になったオレたちの担任の先生は、一年生のときと同様、人一倍身なりにうるさい横島先生だから。
「昌人ッ!テメェ、いつかぶっ殺すッ!!」
この誠君の言葉が、これから1年間毎日のように響き渡るクラスになるんだなぁって。オレも西野君も、そんなことを考えながら、クスッと小さく笑い合っていた。
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