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第578話

「……はぁ、どうしよう」 学校から家に帰る前に、弘樹と西野君と立ち寄ったファミレスで、オレは帰りのHRで配られた一枚のプリントを眺め、溜め息を吐いた。 弘樹の部活が休みの日は、大体三人揃ってこのファミレスで勉強したりおしゃべりしたりすることが多いから。それは今日も変わらずに、二人の距離の近さを微笑ましく思いながら、オレはドリンクバーのジュースを啜る。 「青月くん、まだ進路決まってないもんね」 「でも二年の時に進学か就職かで、就職選んだって言ってなかったっけ?」 オレと同じように、そのプリントを渡されている弘樹と西野君。でもこの二人は、オレとは違ってもう進路を絞っている。 お互い揃いのシャープペンを使って、自分で決めた進路をプリントにスラスラ書いていく二人がオレは羨ましかった。 「弘樹と西野君は、進学だよね。でもオレは、大学まで行って学びたいこともないから、二年の進路相談の時、とりあえず就職を選んだんだけど」 学力社会の世の中を思うと、大学進学は必須ルートなのかもしれない。でも、料理の道に進むと決めたときから、オレは大学への進学を考えていなかった。 「自分の夢に真っ直ぐ進むなら、オレは就職して働きながら料理の世界を学びたいと思ってるんだ」 「うちの学科は進学する人の方が少ないから、高校卒業後就職って言っても、誰も驚かないよ……ね、弘樹くん?」 「まぁ、そうだな。セイの夢に向かってることには違いないワケだし、何をそんなに悩む必要があるんだ?」 パパッと進路希望を書き終えた二人は、まだプリントに自分の名前しか記入できていないオレを見て、心配そうに声を掛けてくれる。 二人とも、自分のなりたい未来予想図がちゃんとしていて。弘樹のプリントの第一志望に書かれているのは、雪夜さんが通う大学で雪夜さんと同じ学部だった。 憧れの人を追いかける弘樹は単純でバカだけれど、それでも何も決まってないオレより、弘樹の方が大人に見える。 自分はどうしたらいいのか、何がしたいのか決まらないオレは、二人に悩みを打ち明けた。 「オレ、自分の料理で誰かを幸せな気持ちにしてあげたいって、そう思ってこの学校に通ってるのは間違いないんだけどね。実際に就職って話になったら、どこの分野を選んだらいいのかさっぱり分からなくて」 「外食産業でもイタリアン、フレンチ、和食に中華……学校給食や病院とかの施設での調理に、横島先生みたいなホテルでのシェフってのもあるし。うちの学科の就職先って、山ほどあるから悩むのも無理ないよ」 オレの悩みにそう答えてくれた西野君は、上げてくれた例とはまったく違う道に進もうとしている。弘樹の影響も大きいんだろうけれど、西野君の第一志望はスポーツ栄養学が学べる私立大学だ。 二年の時から受験に向けての準備を進めている二人と、漠然とした夢の前で立ち往生しているオレ。その違いは、オレに焦りと不安を感じさせた。

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