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第580話

【雪夜side】 星くんを高校まで送り届けた後、俺が向かった先は大学。受ける講義があるわけじゃないが、最近ショップで会えない康介からの連絡があまりにしつこいため、俺は用もない大学まで足を運んだ。 仕方なくコーチのバイト時間まで、キャンキャン騒ぐ康介と二人、俺は大学内のカフェテリアで暇を潰している。 「白石、お前はいいよなぁ……就職先決まってるし、単位もほとんど取り終わってるし」 「決まってるっつっても、内々定だけどな。正式な内定通知来んのは、まだ先」 俺が大学三年の時。 サッカー協会が定めた公認ライセンス取得のため、A級コーチ養成プログラムを前期、中期、後期の三回に分けて受講した。 その他にも、スクールの夏合宿に帯同したりして。おチビさん達と朝から晩までサッカー漬けの日々を送り、指導者として何ができるのか俺は自分なりに模索する毎日が続いていた。 そんなある日、俺の知らぬ間に送られてきた通知は、就活のために夏のインターンシップも何社か受けていた俺を引き留めるように、スクールコーチとして正式に採用する内々定の書類で。 正直、大学三年の夏は死ぬほど忙しかったが。 様々な出来事があり、俺の新しく描いた夢が近い将来、形になろうとしている。 ただ、そんな俺とは違って。 三年の大事な時期に何もせず、のほほん過ごしていた康介は、溜め息をつくばかりだ。 「俺なんて、俺なんてなっ、今までサボってた分のツケが多すぎて、就職の前に卒業できるかどうかすら危ういんだぞっ!?」 「バーカ」 「一言で済ましてんじゃねぇッ!!」 「バカ以外の言葉、見つかんねぇーもん」 就活してても、受からないのはよくある話だが。このおバカな康介クンの場合は、就活以前の問題で。 ……選択科目の単位が足らねぇーだの、どーのこーのって。俺がここに来てから、ずーっと一人で騒いでやがる。 「俺、このままじゃ教育実習行けねぇかも……」 「お前が高校の体育教師とか、それだけで犯罪だな」 「失礼な、これでも真面目に目指してんだけどッ!?」 「いや、真面目に目指してるようには見えねぇーわ。どーせ、女子高生見たさで実習行き決めたんじゃねぇーの」 俺たちの学部では、保健体育科教員の育成コースがある。そのため、体育教師を志す者は必然的に教育実習を受けることになるのだが。 「だってさ……どうせもう就職できねぇなら、三週間だけでもいいから女子高生の近くにいたいじゃん?」 そう言った康介は、俺を見てニヤリと笑う。 「……お前、そのうちマジで捕まんぞ」 「冗談だっつーの。現役女子高生とイチャついてる白石にだけは言われたくねぇッ!!」 現役女子高生って。 確かに星は高校生だが、女子ではない。 「俺は、お前みてぇーな不純な動機で仔猫と付き合ってるワケじゃねぇーから」 何度似たような台詞を吐けば、このバカは理解できるようになるのだろう。そんなことを思いながら、俺はブラックコーヒーを口にした。

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