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第583話
「ユーキーちゃんっ!」
「あ?」
「あ?ってなに、もう少し驚けないわけ?」
……いや、驚いた。
康介がいなくなってから、カフェテリアでボーッとしていた俺に声を掛けてきたのは、金髪悪魔のハズなんだが。
「お前は、誰だ?」
そう呟いた俺は、目の前の男の正体を知っている……光で間違いないことは、俺も分かっている。俺をユキちゃんと呼ぶヤツは、コイツしかいねぇーから。
いねぇーんだけどよ。
「驚き方がおかしいよ、ユキちゃん。金髪の俺に見慣れてた証拠だね、なんかちょっと嬉しいかも」
そう言って、さっきまで康介が座っていたイスに腰掛けた悪魔は、クソ目立つ金髪じゃなくなっていた。艶やかな黒髪を耳にかけ、いつもの王子様スマイルで微笑んでいるけれど。
「髪色変わると、誰だか分かんねぇーわ……ってか、ナニがあってその色にしたんだよ?」
光の行動の意味が全く分からない俺は、黒髪悪魔になった光にそう問い掛ける。ついこの間、飲みに行った時には、まだ見慣れた姿だったのに。
「高校教諭の教育実習用でね……もう今の時期から実習校との打ち合わせとかあるから、黒染めするしかなかったの」
「は?教育実習?お前、大手の企業からお声掛かってんじゃねぇーのか?」
「まぁ、そうなんだけど。先生やってみるのも、悪くないかなぁって……元々、教免は取るつもりだったし。ユキちゃんがコーチなら、俺は先生になってくる」
人一倍顔が広い光は、その人脈と持ち前の計算高さで、俺より早くに就職先が決まっていたんだが。うちの大学の王子様は、どうやら高校の教員免許も取得するつもりらしい。
それにしても、見慣れない髪色だ。
光イコール金髪、大学生活の間にすっかりそれが当たり前になっていたからか、目の前にいる男が光だと認識するまでに時間が掛かってしまう。
「本当は、煌びやかな椅子に座って肘掛けに肘付いて、脚組んで世の中を眺めるだけの簡単なお仕事ですってのをしたい」
「ソレ、ただのニートじゃねぇーか?」
見た目が変わっても、言っていることはやっぱり光で。問い掛けた俺を妖しく見つめるその瞳は、黒髪にして少しだけ幼くなった容姿に反している。
「ニートは自宅警備員じゃん?俺はね、ホンモノの王子様になりたいの」
「あっそ。なんでもいいけど、お前黒髪似合わねぇーな。星の方が可愛いし、アイツの髪の方が綺麗だ」
「比べる相手、間違ってるでしょ?あの子と比較したら、せいの方が可愛くて髪質がいいのは当然だよ。でも、俺には可愛さなんて必要ないからいいの」
確かに、コイツに可愛げなんてもんを感じたことは一度もない。黒髪になったことによって、元々キレイな顔立ちに清楚感が足されたような気がする。
高校時代の面影が残る、ありのままの光の姿。
派手な髪色でなくとも、光が持っている妖艶なオーラは変わることがない。
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