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第584話

おそらく、優が好むのは今の光の容姿なんじゃないかと俺は思った。無理に王子様を演じていない光は、見慣れるまでに時間こそ掛かるものの。黙ってさえいれば、やはり光はキレイなヤツだから。 ……ただ、黙ってりゃな。 「金髪じゃなくても、王子様になれる魔法ってないのかな?人に指図されるより指図する側がいいし、社会に出てもこのスタンス変えたくないんだけど」 「どんな我が儘だよ、ソレ。新卒は扱き使われて当然だろ。でもまぁ、確かにお前が頭下げる姿なんか想像できねぇーけどな」 「でしょ?俺もそう思う……けど、そんなことも言ってられない世の中だから仕方ないよね。お遊びライフ満喫するのも、これで最後だよ」 真っ黒な髪を指に巻き付け、そう話す光。 結構長い付き合いになるのに、こういう時のコイツの本心は見えてこない。わざわざ知ろうとも思わないが、俺には気になることが一つあって。 「そういや、お前の執事ってマジで院受けんのか?」 俺たちが就活だのなんだかんだしている間、王子様の執事である優は大学院の試験勉強に時間を割いていた。アイツが院まで行って、したいことがあるのかは不明だが。 詳しいことを何も聞いていない俺は、単純に素朴な疑問を光に投げたけれど。一瞬、光の顔から完全に笑顔が消え、冷めた表情をして口を開いた光の声は重たかった。 「……うん。元々、あの男は公認心理師と臨床心理士になるために勉強してるから。院受かればいいけど、落ちたら実家戻って、お寺の修行することになるの。執事が僧侶だよ、笑えるね」 ……目が笑ってねぇーよ、王子様。 どんなにキレイな笑顔を見せても、辛そうな瞳の色だけは誤魔化すことができない。けれど、俺はこの王子様のためにもそのことに気付かないフリをする。 「修行って、ウソだろ?アイツ、俺には住職にはならねぇーっつってたのに……ってか、優って公認心理師目指してたのか」 光にも、優にも。 全く興味がなかった俺は、コイツらの進路なんぞ気にもしていなかったが。二人とも、意外な方向に舵をとっているようだ。 「お金にならないと分かってても、優はその道に進むことを譲らない。中学の頃から、優の目標は変わってないの。誰のため、だろうね……優は本当に、頭の可笑しい男だよ」 「……ソレ、お前が言うか?」 俺からしたら、二人ともアホで異常だ。 それは、これからも変わりなく続く関係性であってほしいと願うけれど。 「俺も優も、色々あるの。いつまでも、今のままじゃいられない……それは、ユキもせいも同じでしょ?」 光の問い掛けに、俺は黙って頷くだけだ。 俺たちにとって、最初の分岐点になる卒業という節目を感じざるを得ないこの1年。お互いのことを想いつつも、それぞれ違う道を歩まなければならないのは明白で。 俺だけじゃなく、光と優も。 この先の未来に不安を抱えながら、笑顔でそれを上手く隠して。周りに悟られることのないように、平然を繕っているのだと実感した。

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