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第596話
オレが雪夜さんに愛されていることは、痛いくらいによく分かっているつもりだ。大好きで、オレが心の底から信頼している雪夜さんは、オレを離したくないと言ってくれた。オレは、その気持ちだけで充分だから。
オレの腰に回されている雪夜さんの手に、オレは持っていた資料を挟み込む。雪夜さんが今掴むのはオレじゃないんだって、分かってほしいんだ。
「……雪夜さん、オレは……雪夜さんの無邪気な笑顔が、本当に大好きです。だから、海外研修頑張ってきてください」
やっと言葉にできた想いは、オレの本心でもあり嘘でもある。それを雪夜さんには気づかれないように、オレは震えそうになる声を抑えた。
「星……」
「オレのお願い、聞いてください。雪夜さんは、絶対に行かなきゃダメです。オレは、オレはここで待ってます。ずっと、ずっと待ってます……だから、少しの間、離れても……大丈夫、です」
頬を伝ってしまった涙を拭い、唇を噛んだオレは、雪夜さんの空いた片手で頭をくしゃりと撫でられる。
「大丈夫なワケねぇーだろ、お前泣いてんじゃん。こんな可愛いヤツ、独りにさせておけねぇーよ」
気づかれないようにしてたのに、雪夜さんには伝わってしまう。でも、オレは笑顔で雪夜さんを送り出すって決めたから。この気持ちが変わらないうちに、雪夜さんに研修に行くって言わせないと。
そう思い、オレは頭の上に乗っている雪夜さんの手を掴んで振り返り、今できる精一杯の笑顔を見せる。
「雪夜さんだって、さっき泣いてたじゃないですか。オレは、いつものことだからいいんです」
「よくねぇーよ、半年だぞ?おぎゃーって産まれた赤ん坊が、6ヶ月経ったら離乳食食って座れるようになんだからな?」
「雪夜さん、詳しいですね。きっと、良きパパさんになれますよ……あ、でもオレは子供産めないや」
離れてしまうのは、寂しい。
心配してくれる雪夜さんは、オレがお願いしてもまだ迷っている。オレは大丈夫だって、そう思ってもらえるように……オレは少しでも明るく振舞って、雪夜さんを説得しようと思った。
「星くーん、話がすげぇー逸れてんだけど」
「逸れてないです。雪夜さんはこの先も、ずっとオレと一緒にいてくれるでしょ?長い目でみましょう……70歳くらいまで生きるとして、あと50年あるって考えたら、半年なんてあっという間です」
「そうかもしんねぇーけど、俺がお前と離れたくねぇーんだよ……俺、マジで無理、ヤダ」
オレだって、本当はイヤだ。
でも、これは雪夜さんのためなんだ。
オレは雪夜さんに、夢を追いかけてほしい。
雪夜さんの無邪気な笑顔を、傍でずっと見ていたいから。
……だから、どうか分かって。
「もう、ワガママ言わないでください。これ以外オレの決めた答えに反論するなら、オレは雪夜さんと別れますっ!!」
「はッ!?ちょっと待て。分かった、分かったから、研修行ってくっから、別れるとか言うな」
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