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第597話
泣きたいのか、笑いたいのか。
怒っているのか、悲しんでいるのか。
自分でもよく分からないけれど、雪夜さんが分かってくれたから、オレはすっごく安心した。
別れたいなんて、本当はこれっぽっちも思っていない。でも、雪夜さんを言い包めるにはこれしか方法が思いつかなかった。傍にいたいと想うことだけが、愛情の形だとは限らない……離れてしまっても、オレは雪夜さんが大好きだから。
「雪夜さん、前言撤回はなしで、お願いしますね?」
「分かった……ったく、ホントお前には適わねぇーわ。この数日間、ろくに眠りもせずに考えてた俺がアホらしい」
そう言って、オレの肩に顎を乗せて呟いた雪夜さん。ずっと悩んでいた緊張感から一気に開放されたのか、ふわぁーっと欠伸をする雪夜さんが可愛らしい。
普段は気怠げなオーラ全開で、何をするにも面倒くさそうな雪夜さんだけれど。本当は、とっても真面目で頑張り屋さんだってこと、オレは知っているんだ。
そんな雪夜さんだから、応援したくなる。
出逢い方はおかしかったし、初めて会った時は変な人だと本気で思ったけれど。でも、オレはどんな出逢い方をしていたとしても、雪夜さんに惹かれてしまうんじゃないかなって思った。
「雪夜さん、大好きです」
沢山の想いを言葉に込めて。
オレはそう呟き、雪夜さんと向かい合う。
寂しい気持ちや不安な思いは、拭いきれないけれど。有無を言わさず、かなり強引に、雪夜さんの研修行きを押し進めたのはオレだから。半年間、会えなくなることを承知の上で、それでも送り出す決意をしたんだもの。
離れてしまうあと1ヶ月余りの残された時間を思うと、それだけで涙が溢れそうになる。けれど、今はまだ雪夜さんから離れなくていいんだから。だったら、今こうして、触れ合える幸せをオレは少しでも実感していたい。
雪夜さんを、もっと近くで感じたいから。
雪夜さんの首に腕を回して、オレは自分から雪夜さんの唇に口付けた。
「んっ…」
重なって、交わって。
少しずつ深くなるキスは、いつもの雪夜さんがしてくれる甘くて優しいもの。それは、オレの身体を熱くさせてるから。オレがもっとほしいと強請ってしまう、魔法のようなキスなんだ。
「ぁ…ん、ふぁ…ッ」
雪夜さんの手で頭を支えられ、その指にオレの髪が絡んでいく。触れてもらえることが嬉しくて、オレも雪夜さんの髪をくしゃりと掴んでいた。
抱き合って、キスをして。
二人だけの世界に酔いしれていくオレ達は、ゆっくりと唇を離し見つめ合う。
「星、ありがとう……なんて言ったらいいか分かんねぇーけど、すげぇー愛してる」
「雪夜さん……」
愛してる。
これ以上の愛を伝えられる言葉があるなら、オレはその言葉を雪夜さんに贈りたい。
だけど、そんな言葉は思いつかなくて。
大好きな笑顔で微笑んでくれる雪夜さんと、オレは繋がりたいと思うことしかできなかった。
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