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第600話
【雪夜side】
散々悩んで、答えを出せぬまま迎えた金曜日は最悪だった。せっかく星に会えると思っていたのに、バイト先の先輩から飲み会に誘われ、断りきれずに星を独り家で待たせている自分が腹立たしかった。
それは俺自身が、夢と恋人の間で揺れている気持ちそのもののような気がして。悪酔いするのは滅多にないのをいいことに、俺はかなりの量の酒を飲んでいたんだと思う。
それでも千鳥足になるどころか、頭はかなり冷静で。酒に酔うことすらできない俺は、自己嫌悪まっしぐらだった。けれど、日付が変わる前には家に帰ってやりたくて。先輩からの二次会の誘いを振り切り辿り着いた家で、待ちくたびれた星が眠っていた。
ソファーで丸まりステラを抱え、寂しさを紛らわしながら眠りに就ていた仔猫。耳にはまったままのイヤフォンを外してやり、テーブルの上に置いてあった専用ケースに閉まってやって。
声を掛け、俺の帰宅を知らせてやると、星の真っ黒でキレイな瞳が情けない男を映し出していた。
会ってしまったら、触れてしまったら。
やっぱり夢なんて、どうでもいいと思った。
俺は星と、離れたくない。
心からそう思っているのに、どこか納得出来ず、勢いに任せて星を抱こうとしたけれど。
俺の異変に気づいた星は、真っ直ぐな瞳で俺を捕らえていて。悩むのも、考えるのも、体力も、何もかもが限界だったらしい俺の目からは勝手に涙がこぼれ落ちていた。
それでも、何も言わずに星は俺の傍にいてくれたのだ。泣いたのを酒のせいにし、俺は想いの全てを星に告げることにした。話している間、星の瞳を見ることができない俺は、煙草を咥えながら淡々と話して。
もう研修は諦めようと思い、俺が星を抱き締めた時……星は、俺とは違う意見を言って、俺の手に研修の資料を無理矢理挟み込んできた。
その後は、もう星に言われるがままで。俺は、星の決めた答えに従うことにした。
俺のために、強がってくれる可愛い恋人。
離れたら泣かせてしまうし、どれだけ笑顔を見せてくれたとしても、俺が心配しないワケがないんだが。
精一杯の笑顔で俺の後押しをしてくれた、星の想いを大切にしてやりたくて。俺は沢山の想いを込め、星に愛してると告げた。
感情ってもんは、とても重たいものだと知って。触れ合える喜びを、肌で感じて、傍にいられる幸せを実感して……そうして何度も抱き合い、眠りについた朝。
気がつけば最悪だと思っていた昨日が終わり、幸せな今日がやってきていた。
「雪夜さん、明日はデートしませんか?」
ブランケットに包まり、俺にそう尋ねてきた星くん。けれど、目覚めたのは昼過ぎで、俺だけ真っ裸だった。
星が風邪をひかないように、身体をキレイにしてやった後で星くんには適当に俺の服を着せたけれど。その後、俺は力尽きて何も着ることなく眠りに就いたんだった。
回転不足の頭でんなことを考えつつ、起き上がって手にした煙草を咥え、俺は星に問いかけた。
「どこ行きてぇーの、星くん?」
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