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第601話
デートの約束通り、次の日俺たちがやってきたのは、家から少し離れた場所にある芝生が広がる公園だ。
星が好むデートは、基本的にのんびりとした時間を楽しむものが多く、ドライブしたり、散歩したり、カフェを巡ったりと、星は俺と同じ景色を観て過ごすことを望む。
穏やかで安らげる星からのデートのお誘いは、俺も癒されるから単純に好いているけれど。今日の星くんは、どうやら俺のリフティング姿を見たいらしく、ベンチに座り微笑む星の前で、俺はボールと戯れている。
小学生の練習メニューのように、足先、腿、胸、の順で左右交互に細かくボールをトラップして。途中、足裏や頭のトラップを挟みながら、俺はボールを落とさずに遊んでいくけれど。
「201、202、203……え、すごいっ!」
「お前数えてたのかよ?わりぃーな、つまんなくなってきたからつい……ッと、ちょっと休憩すっか」
「雪夜さんっ、もう一回、もう一回今のかっこいいやつやってほしいです!」
左右交互にリフティングするだけじゃつまらなくなって、星が必死でリフティングの回数を数えていたとも知らずに、俺はテレビで観た足技をやってみたのだが。
思いの外すんなりできて満足した俺とは違い、目をキラキラさせてもう一回と強請ってくる星くんは、俺を休憩させてはくれない。
「雪夜さんが今やったのって、先週テレビで観たやつですよね?芸人さんがMCで、宿題としてリフティング技する企画があったやつ」
「星くん、よく知ってんじゃん。あの宿題結構レベル高けぇーんだよ、プロの選手からの宿題だし。先輩に急にやれって言われることも多いから、今のうちに練習しとかねぇーとな」
「じゃあ、もう一回っ!」
……あー、クソ可愛い。
風に流される長い前髪を片手でおさえ、成長しても仔猫な星くんはふんわり笑って俺を見る。
この愛らしい瞳で純粋に見つめられると、俺でも照れる……が、今は照れてる場合じゃねぇーってことも承知の上で。
「これやったら、休憩していいか?」
そう星に問いかけつつ、もう一度俺は同じリフティング技を星の前で披露した。
「やっぱり、やっぱりカッコイイです」
惚れ惚れしたように星くんに呟かれ、俺は思わず口元を腕で隠す。照れるし、恥ずいし、何より俺は、光り輝く星の瞳を直視できそうになかった。
いつまで星はこの汚れなき瞳で、真っ直ぐに俺を見てくれるのだろう。一緒にいるこの時間を大切にしたいと、そう語り掛けてくるような星の眼差しに、俺の心が折れそうになる。
俺が傍にいてもいなくても、星にはこのまま微笑んでいてほしい。この星の笑顔を失うのが怖くて、俺は自分の気持ちに嘘を吐こうとしたけれど。
やっと正面から向き合えた夢を、今は追いかけていこうと思う。星がこうして俺に微笑んでくれる限り、俺は一人でもきっとこの壁を越えていける。
今を思い出に変えて、離れていても星のことを思い出して……そうやって、この先の半年を力に変えていきたいと思った。
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