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第602話

「弘樹が悩んでるらしいんですよ、オレはよく分かんないんですけど……西野君がその、積極的らしくて」 星の歩幅に合わせてゆっくりと歩き、公園内を散歩して。俺の服の袖を軽く掴んで隣を歩く星くんは、俺を見上げ話してくる。 「積極的って、ソレはナニの話ってコトでいいワケ?」 星の話にそう聞き返した俺は、ニヤリと口角を上げ星を見る。自分は全く関係ないダチ二人の話なのに、頬を染め頷く星くんが可愛い。 弘樹が悩んでいるのは、俺も知っている。 西野の野郎と付き合い出した弘樹だが、星のことや西野のことで、今もちょくちょく俺に連絡してくる弘樹。 ここ数日は俺も自分のことで手一杯で、周りのヤツらに構っている暇はなかったけれど。弘樹は弘樹なりに、男としての悩みを抱えているらしい。 星だけじゃなく、俺にまで胸のうちを明かしてきた弘樹は、経験豊富な西野の相手を童貞の自分に出来るのか不安らしく、積極的にカラダの関係を求めてくる西野に対して、どう接していけばいいのか迷走中のようだった。 ハジメテの相手が本当に男でいいのかとか、いざとなったら勃たないかもしんねぇーとか。そうなったら西野に申し訳ないから、抱きたいって気持ちまでいかねぇーとか。 バカ犬が頭使って考えてんのは、そんな不純で純粋な内容のものばかりで。正直、最初は不純な動機で星に触れた俺は、弘樹の悩みがよく分からないままだったりするけれど。 「雪夜さんは……オレからその、キスとかしたらイヤですか?」 ……ついさっきまでの、ダチの話はどこいったんだよ、星くん。 弘樹と西野の悩みを自分自身に置き換えてしまったらしい星は、真剣な顔をして俺に尋ねてくる。 元々消極的な星なのに、これ以上控え目になられたら困る。星から求めてくれることも前より多くなった今、俺の可愛い仔猫に余計な心配はしてほしくなくて。 「イヤじゃねぇーし、むしろすげぇー嬉しいってか、いつでもウエルカムだから心配すんな」 そう言って微笑んだ俺に、星は愛らしい笑顔を見せる。 「えへへ、それなら良かったです。でも弘樹は、どうして悩んでるんでしょう?なんかこう……好きだから触れたくなったり、自然と甘い雰囲気になったりするものじゃないんですか?」 ……自然と、か。 星は天然誘い受けだから、自分からその甘い雰囲気を出していることに気づかないヤツだし、受け身なだけで、星くんド淫乱だしな。 見た目はかなり控え目で清楚なのに、クッソエロい男に成長させたのは俺だけれど……なんて、心の声はさて置き、だ。 「あー、アレだ。アイツ童貞だから」 「いや、えっと、オレもそうなんですけど?」 頭の上にクエスチョンマークを浮かべた星を連れて、俺は弘樹とは違う悩みを抱えながら車を停めてある駐車場まで歩いていく。 受ける側には分からないであろう、攻める側の苦労を天然記念物の星くんに話してやったところで、きっとコイツには理解できないし、理解できないままでいい。

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