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第603話

襲いてぇーっつーか、喰いてぇーっつーか。 こっちの気も知らずに無邪気に笑ってみたり、そうかと思えば頬を染め俯いてみたり。 ダメって言われたらもっとしたくなるし、もっとって言われたら気分によってはすげぇー意地悪したくなるし。泣きじゃくって甘ったるい声で縋られると堪んまんねぇーし……って俺、運転中だった。 運転しながらナニ考えてんだって、星くんには怒られそうだが。こんなに夢中になれる相手なんだから仕方ねぇーじゃんと、俺は自分自身を正当化する。 反応が見たくて、わざと俺から仕掛けることもあるけれど。それも予想以上の反応が返ってきたりして、結局俺が星に煽られたりするし。 男とか女とか関係なく、好きならご自由にどーぞ、と弘樹には言ってやりたいが。健全な男子高校生の悩みは、そんな簡単に解決できる問題ではないらしい。 「昨日ね、弘樹が西野君のお家に泊まりに行ったみたいなんです。それで、西野君が弘樹の上に乗ってきて……ちょっと待ってって、弘樹が西野君を止めようとしたら、逆に押し倒しちゃったらしくて……」 ……どんだけ詳しく、ダチに性事情を喋ってんだよバカ犬が。 と思いつつ、恥じらいながら俺に話し掛けてくる星の話を聞く。 「そのままそういう雰囲気になればよかったんだけど、弘樹は動揺しちゃったらしくて……弘樹がごめんって謝ったら、西野君が泣いちゃったみたいで。結局昨日は、険悪なムードのまま弘樹は帰ってきっちゃったらしいんです」 弘樹から送られてくるLINEを読み、そう話す星は運転する俺をチラ見しながら助けを求めてくる。困ってますって顔をして、眉を下げる星くんが可愛い。 星は弘樹に、どう返信したらいいのか分からないのだろう。俺たちがそんな流れになったら、間違いなくヤるからだ。 星が求めてきたら俺は尻尾振って飛びつくし、星もそんな俺を受け入れてくれる。しかも、西野と弘樹のその流れをそのまま俺たちに置き換えるとしたら……俺が悪戯を仕掛けても、星が文句を言えない立場に追い込めるワケで。 優しさと意地悪を同時に操れば、星くんが好む言葉責めも、羞恥プレイも、やりたい放題できるお得プランだと思った。 こんなコトを運転中に平然と考えられるのだから、弘樹の悩みは俺たち二人には全く理解できないけれど。 「まぁ、そのタイミングで謝っちまった弘樹がわりぃーからな。西野は拒否られたと思って、誤解して泣いたんだろ」 「お泊まりしたらそういうこともするのかなって、期待しちゃいますもんね」 「ふーん、じゃあ星くんはいつも期待してくれてんのな。お前はほぼ毎週のように、俺ん家泊まりだし」 「あっ、えっと……だって、会ったらやっぱりひとつになりたいなって思っちゃうし……ってそうじゃなくて、オレの話はどうでもいいんですっ!」 自分で墓穴掘って、真っ赤になる星くん。 こういう反応の仕方を素でやってくるコイツは、やはり天然記念物だと思った。

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